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公募シンポジウム講演 S06-3

ハナノキの保全・生態学的特性と更新のための森林管理

鈴木和次郎(森林総研)

ハナノキ(Acer pycnanthum)はカエデ属ハナノキ節に属する落葉性高木で、岐阜・長野県境にある恵那山を中心に半径50kmに分布する希少樹種である。ハナノキ節は、第三期には温暖な周北極地域に広く分布していたが、現在では、北米に2種(A. rubrum、A. saccharinum)、そして極東(日本のみ)に1種(ハナノキ)の3種が現存する遺存的な樹種でもある。北米の2種は東部を中心に広く分布する普通種であるが、日本のハナノキは、低湿地や湧き水周辺あるいは高層湿原の周辺に局所的に分布するのみである。加えて、近年、こうした生育場所が様々な開発行為により、改変、縮小が進み、ハナノキ集団の分断、孤立、縮小が進み、種としての存続が危ぶまれ、絶滅危惧種II類(実態的にはIbと見られる)に指定されるに至っている。

現在、ハナノキは小集団化が進み、多くは各レベルで天然記念物の指定など保護措置が取られているが、ことの深刻さは、こうした場所でも後継樹が全く存在しないことである。その背景として次のことが考えられた。つまり、(1)小集団化による繁殖障害、(2)実生の発生・定着過程での死亡である。調査の結果、種子の生産やその健全性に問題は無く、一方、実生の発生は僅かしか見られなかった。この結果、更新阻害の大きな問題は、第一義的に種子の散布以降、実生が発生の間に種子が消失することであり、その後の定着過程での生存率を左右する環境条件と見られた。

以上の結果を基に、私たちが地域住民、行政と進める二つの保全事業の事例を紹介しながら、ハナノキの保全と保護に向けた手法・対策(すべきこと、すべきでないこと)を提案する。

日本生態学会