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公募シンポジウム講演 S06-4

北海道におけるクロミサンザシの生育実態と保全の取り組み

八坂通泰(北海道林試)

クロミサンザシは,長野県,北海道,中国東北部,サハリンに分布する落葉中高木で主に湿地や河畔に生育する。個体数減少の主な原因は生育場所の開発とされているが,その生育環境,繁殖特性などの詳細は不明である。クロミサンザシの保全対策を効果的に実施するために,北海道での生育実態や繁殖特性などを調査した。

文献情報によると,クロミサンザシは,道南地方以外の道央地方,道北地方,道東地方にかけて広く分布していると考えられた。道央,道北,道東地方の15個体群において生育状況を調査した結果,個体群当たりの繁殖個体(胸高直径6cm以上)数は3〜36個体で,半数以上の8個体群で10個体未満であった。

各個体群の生育場所は,地形が平坦で土壌水分環境が比較的湿潤であった。生育林分は,林冠の閉鎖度は様々で,上木はヤチダモ,ハルニレ,ケヤマハンノキなどであった。これらの多くは天然林であったが,ヤチダモなどの落葉広葉樹からなる人工林でも生育していた。ただし針葉樹人工林では確認できなかった。これらの個体群で遺伝的変異をRAPD法により調べた結果,3つのグループに分かれた。クロミサンザシの個体サイズは高木層の被度に,個体数は林床のササの優占度と関係があった。

種子生産は,花粉媒介昆虫や種子害虫の活動の影響を受け,個体数の少ない個体群では健全な種子生産が行われていない場合もあると予想された。果実は鳥により採餌され,種子分散は距離とともに減少すると考えられ,数百メートルの範囲で多いと予想された。

これらクロミサンザシの生育実態や繁殖特性を考慮した保全策について検討すると共に,クロミサンザシなど絶滅のおそれのある生物の保全と目的として,北海道が実施している「生物多様性保全の森設定事業」についても紹介する。

日本生態学会