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公募シンポジウム講演 S06-5

遺伝構造からみたユビソヤナギの保全と水辺管理

菊地 賢(森林総研)

ユビソヤナギ(Salix hukaoana)は、現在までに北関東から東北地方にかけての数箇所の山地河川でしか生育が確認されていない高木性のヤナギである。河川改修等の影響で生育地の縮小・分断化が進行し、個体数が減少している。

ユビソヤナギ林分の群集調査により、同所的に出現する他種のヤナギ(オノエヤナギ・シロヤナギ等)とのすみ分けは不明瞭ではあるが、ユビソヤナギを含んだヤナギ林は比較的比高の高い河川氾濫原にも成立した。これは、あらゆる規模の河川攪乱に依存して更新しつつも、比較的寿命が長いことで安定した立地環境においても集団を維持することが可能であることを示唆する。

各生育地において遺伝マーカーによる解析の結果、調査地のほとんどで遺伝構造が見られ、流域内においてもユビソヤナギの遺伝子流動には空間的に制限があることが明らかになった。そのパターンは河川間で異なっており、原生的な水辺環境を残す湯桧曽川など集団密度の高い区域では近隣からの遺伝子流動が卓越し、生育地の分断化にしたがって長距離散布への依存が高くなるが、生育地の隔離が数キロ程度になると遺伝的隔離が生じる可能性が指摘された。

ユビソヤナギの保全で最も重要となるのは河川の攪乱体制の維持であると考えられるが、分断化の進行した生育地での集団の維持については、今後その存続可能性についての評価が必要であると考えられる。また、現在もなお新しい生育地が報告されるなど、分布・分類に関しては基本情報の蓄積も急務である。本講演では、ユビソヤナギの保全研究の進捗や民間を含んだ保全への取り組みの事例を併せて報告する。

日本生態学会