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公募シンポジウム講演 S06-6

ハナガガシの生態と保全

伊藤 哲(宮崎大学)

ハナガガシは分布域が九州南東部にほぼ限られ、個体数が少なく近年減少傾向にあることから絶滅危惧種IBに指定されている。

ハナガガシは斜面下部に集中して分布することから、保全へ向けた基礎知見として、まずは立地依存のメカニズムの解明が重要である。ハナガガシ個体の空間分布と生残率を生活史の各ステージで解析したところ、実生発生初期の段階からすでに下部斜面へ集中し、生育ステージが進むにつれてその度合いが強まる傾向が確認された。ハナガガシが斜面下部に集中して分布する要因として、土壌水分および斜面下部で撹乱が頻発することによる良好な光条件が考えられる。これらの影響を生理生態学的特性の面から評価した結果、ガス交換特性は典型的な極相種であるイチイガシとほぼ同等であった。一方、ハナガガシはイチイガシに比べて葉の水分特性の可塑性が低く、耐乾燥性の低さが地形的な分布の要因であると考えられた。すなわち、ハナガガシ個体群の現地保全には土壌水分の良好なハビタットの確保が最も重要であり、土壌が乾燥しやすい立地での受光伐などの施業による効果は期待できないといえる。

斜面下部は一般に生産力が高いため選択的に人工林へ林種転換されてきており、これがハナガガシのハビタット減少の大きな要因となっている。したがって、人工林から二次林へ再度林種の転換を図り、新たなハビタットを確保することも重要な保全策である。そこで、現存する天然林と地形を制約因子に用いてハナガガシの天然更新の可能性を予測し、これに基づいて再転換候補地の選定を試行した。その結果、候補地をランダムに配置する場合と比較して、種子源やハビタットの効果を考慮して戦略的に配置することの有効性が示された。また、安易に林業生産性の低い場所から転換するとランダムに転換する場合よりも非常に低い効率しか得られず、保全の効果が極めて低いことが示された。

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