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公募シンポジウム講演 S07-2

ホンヤドカリ属の資源配分パターン:メスの交尾直前脱皮と産卵

和田哲(北大・水産科学)

海洋性ベントスの多くの種は多回繁殖であり、さらに成熟後も成長しつづけるため、成長と繁殖の資源配分様式は複雑である。しかし甲殻類では、成長が脱皮によって断続的におこなわれるため、脱皮と産卵というイベントに着目することによって、野外における資源配分パターンを効率よく調査することができる。演者はホンヤドカリ属の成長と繁殖の資源配分を、1回産卵量、産卵間隔、脱皮あたり成長量、脱皮間隔という4つの構成要素に分けて研究を進めている。今回は産卵間隔に着目する。産卵間隔は1回産卵量に比べるとあまり注目されていないが、繁殖期に産卵を複数回にわたっておこなう種では、その産卵間隔が繁殖期あたりの産卵回数を決める1要素となる。とくに産卵場所の広さの制約などによって1回産卵量に上限があるとき、産卵間隔は生涯繁殖成功度を左右すると考えられる。連続する2回の産卵の間隔は、それら2つの1回産卵量における資源配分や、その期間における産卵量と成長の資源配分にも大きな影響を及ぼすかもしれない。

ヤドカリのメスは、自分が背負っている貝殻のなかで、卵が孵化するまで保護する。貝殻の大きさは抱卵場所を制限するため、相対的に小さい貝殻を背負っているメスは抱卵数が少ないことがある。いっぽうで、小さい貝殻はヤドカリの成長を抑制する。また、本研究の対象種では、メスは繁殖期に複数回の産卵をおこない、交尾直前に脱皮することがある。さらに、メスの抱卵数や脱皮間隔は一般に体サイズに依存して変化する。これらの要因は産卵間隔に影響を与えるかもしれない。

本研究ではホンヤドカリ属2種を対象として、貝殻サイズ、メスの体サイズ、産卵数、交尾直前脱皮の有無が産卵間隔に及ぼす影響を調べた。その結果、脱皮したときに産卵間隔が長い傾向が両種で認められた。このことは、産卵間隔と脱皮頻度にトレードオフ関係があることを示唆している。

日本生態学会