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公募シンポジウム講演 S07-3

個体及び集団の成長が同種・他種に与える正の影響・負の影響

河井崇(九大院・理・生態研)

本講演では「生活史研究」の本流ではなく,演者がこれまで携わってきた「群集生態学」,特に「生物間相互作用」の観点から「生活史」についてとりあげ,生物どうしの関係が互いの生活史の段階により変化する可能性について報告する.体サイズに基づく個体の成長段階(個体の生活史段階),さらには個体密度に基づく集団の成長段階(集団の生活史段階?)の違いが,他個体(同種・他種)の成長や生存に与える影響について紹介したい.

九州天草の岩礁潮間帯には,固着性動物であるカメノテとムラサキインコが同所的に生息している.カメノテは岩の表面に群生しており,その集団内部では物理的ストレス(波あたりによる攪乱作用)が緩和され,そこに棲み込んでいるムラサキインコの生存・成長を促進していることが明らかにされている.しかしながら,カメノテのストレス緩和作用による正の影響は,両種の体サイズの相対的な違い(個体の成長段階)により変化すると予想される. すなわち,(仮説1)カメノテの体サイズがムラサキインコの体サイズと同等かそれ以上の時にのみ,ムラサキインコに対する波あたりの衝撃が緩和され正の作用が発現する.さらに,カメノテの集団サイズ(集団の成長段階)により,ムラサキインコに対する影響が変化する可能性が考えられる.(仮説2)集団サイズが小さいとストレス緩和作用が弱く,ムラサキインコへ有意な影響を与えないが,大きくなるにつれて正の影響が増加する.しかし,集団サイズがある程度大きくなると競争による負の作用が発現するため,正の作用と打ち消し合い見かけ上カメノテの影響は減少する.加えて,(仮説3)同種間の負の影響は,両種ともに集団サイズが大きくなるにつれて増加する.

本講演では,上記仮説を検証するために実施した野外操作実験の結果を報告するとともに,生物間相互作用を介した環境への適応(生活史の進化?)についても考察したい.

日本生態学会