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公募シンポジウム講演 S07-6

生活史研究における問題点:海洋性ベントスの場合

入江貴博(九大・理・生物)

観察された成長や繁殖の個体発生的パターンを生物の進化という視点から説明するときに、成長・繁殖・防御といった要素間での資源や時間の配分を仮定して理論的に予測された最適生活史との比較は欠かせない。多回繁殖を行う海洋生物のほとんどは、成熟後も繁殖だけでなく成長にも資源を投資する非決定成長者である。しかしながら、成長と繁殖の間の資源配分率に関する時系列を戦略とした場合に、個体の適応度が最大化される成長スケジュールが非決定成長となることが知られた単純な数理モデルは提唱されていない。この事実は、海洋性ベントスの生活史を研究する上でのひとつの問題点となっている。本講演の前半では、非決定成長の進化条件に関する理論的研究の現状を紹介し、今後の展望について述べる。

続く後半では、成熟後は成長への資源配分がいっさい行われない(決定成長の)海洋性ベントスの一例として、タカラガイの生活史について述べる。浮遊幼生期を伴って広大な分布域を持つ海洋性ベントスでは、生活史形質や形態形質の種内地理的変異が容易に観察されるが、それが遺伝的な分化に基づくのか、表現型可塑性の産物であるのかを明らかにした研究は少ない。このことは、形態形質が分類の根拠とされることが少なくない海洋性ベントスにおいて、深刻な問題を孕む。演者は平均体サイズが大きく異なる二個体群から採集したCypraea annulus ハナビラダカラの稚貝を実験室の同一環境で育てた場合に、野外で観察された体サイズの地理的変異が純粋に環境の違いに基づくものであることを証明した研究結果を報告する。

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