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公募シンポジウム講演 S08-5
山地斜面では,斜面上の位置によって植物の種組成が変化する.それは,土壌,水分,撹乱頻度などの環境が地形によって異なるためであり,地形の認識なくして植生の配分を理解することはできない.個体サイズの小さい林床植物ほど,より小さなスケールの地形要因まで影響を受けるため,地形と林床植物の関係を明らかにするためには,微地形を詳細に把握する必要がある.このような観点にもとづき,秩父山地のシオジ-サワグルミ林において,地表撹乱による地形形成が林床植生の種組成分化に及ぼす影響を明らかにするための調査を行った.ここでは,土石流段丘,沖積錐,段丘崖,新規崩壊地,旧崩壊地,崖錐といった微地形に応じて林床植生の種組成が変化していた.新規崩壊地や段丘崖では,降雨時の表面流や表土の微細なすべりによって1年間隔やそれよりも高頻度の攪乱が起こっていた.これらの微地形に分布する栄養繁殖型越年生草本やムカゴをつくる多年草は,植物体が撹乱を受けてもほとんどの個体が生残しており,開花個体も見られた.このことから,物質貯蔵を積極的に行わず早急に繁殖体を分離する種特性は,高頻度で植物体が損傷をうける立地に適応的であると考えられた.一方,土石流段丘や沖積錐は,樹木の樹齢と土壌化の程度から100年以上安定した立地であると推定された.ここでは,春植物や貯蔵型根茎植物といった地下茎の貯蔵物質が個体の維持や繁殖に重要な種が優占していた.このような特性をもつ種は,植物体の一部が頻繁に損傷を受ければ,開花や種子形成が行えなかったことから,むしろ安定した立地に適応的であると考えられた.したがって,林床植物に対して,1年以下の頻度で起こる地表攪乱は,攪乱自体が種の分布規制要因として強く働き,100年以上の頻度で起こる地表攪乱は,攪乱自体の影響よりも環境要因を規定する作用が強いと考えられた.