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公募シンポジウム講演 S09-2
貯水ダムが下流域における底質環境,底生動物群集,流下有機物,生物群集の栄養起源に与える影響を明らかにするため,2002〜5年に近畿圏16ダムの下流域とダムのない5対照流域において比較研究を行なった.本講演では,それらの結果を整理しダム湖起源物質の到達距離に及ぼす河床地形の影響を考察する.
【ダム建設後の履歴効果】貯水ダム下流の河床材の粗粒化は数十年かけて進行し,50年後の平均粒径は30〜40cmに達する.また,貯水ダム下流域では,逆に粒径1mm未満の細粒成分が多くなることもわかった.
【ダム運用の影響】貯水ダム下流の底質表面に堆積する付着層量は,平水〜渇水時に流量を安定化させるダムほど多く,造網型のシマトビケラ科や滑行型のヒラタカゲロウ科は付着層によって減少することがわかった.一方,底質の隙間に堆積する有機物量は豊水以上の流量を安定化させるダムほど多い傾向が見られた.
【流下距離による変化】ダム下流域の流程に沿って系内物質の安定同位体比から,貯水池由来物質の寄与率を評価した結果,3kmの流達過程と30平方kmの残流域(ダム湖流域の25%)の流入とによってほぼ対照河川に近い栄養起源に変化した.また,ダム湖で生産されたプランクトンが90%減少するまでの流下距離は,木津川では25km,宇治川では30kmと推定された.
【河床地形による影響の違い】木津川と宇治川における流下距離の違いは,河床地形の違いが粒状有機物の捕捉率に影響した結果であると考えられる.木津川では名張川の土砂が高山ダムに遮断されるが,木津川本川の土砂が直下流から合流するため,50%近い流域面積から土砂供給が期待される.一方,宇治川では流域面積のほとんどが天ケ瀬ダムに遮断され残流域の土砂供給がきわめて少ない.このようにダム下流域の土砂供給の違いは,生態系影響の程度に強く反映すると考えられる.