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公募シンポジウム講演 S10-1

森林生態系の持続的な利用と保護:持続性の指標としての生物多様性

北山兼弘(京大生態研センター)

森林生態系は、産業としての木材生産や農地への転換などの目的で常に人的な改変の圧力にさらされている。世界的に土地利用への圧力がますます高まる中、厳正な森林保護区の面積増加は期待できない。このため、一切の人的な干渉を排除する厳正な生態系保存の他に、持続的に森林資源を利用しながら生物相や群集を維持する保全手法の開発が求められている。特に熱帯では、その必要性が高まっている。共同研究者と私は、マレーシア・サバ州のデラマコット熱帯林において商業伐採による伐採率と生物多様性の関係を調べるプロジェクト(総合地球研プロ;主査、中静透)を展開してきたので、その成果を使い持続的利用と生物多様性の関係について考察してみたい。ここでは、低インパクト伐採という、物理環境への伐採影響を極力低減し、持続的に木材生産を維持する、新しい森林管理が行われている。私たちは、原生林、低インパクト伐採による低い伐採率、従来の手法による重度の伐採まで、伐採影響を5段階に分け、分類群毎に伐採影響を調べた。高木樹では種や科の数が重度の伐採によって大きく低下したものの、高木樹を含むほとんどの分類群では分類群の多様度と伐採率の間に線的な関係が認められなかった。しかし、種あるいは高次の分類レベルでの群集組成は伐採度に応じて変化する傾向が、幾つかの分類群で認められた。特に、高木樹や大型土壌動物ではその傾向が強かった。熱帯林の伐採影響は、分類群の多様度ではなく、群集組成によってより適切に指標できると思われる。低インパクト伐採の森林では、高木樹の組成が原生林と高い類似性を示し、この伐採方法によって木材生産と保護の両立を達成できる可能性が示された。

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