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公募シンポジウム講演 S10-3
この地球上に、人間活動と全く無縁な生態系などもはや存在しないだろう。しかし、人間活動に伴う自然生態系の変動過程を詳細に記述した研究はそう多くない。組織的かつ計画的に生態系をモニタリングする研究プログラムは、ほとんどの場合、生態系の異変に気付いて初めて実行に移される。そのため、このような研究では、人為影響が及ぶ以前の生態系に関する情報をしばしば欠く。これらの欠落情報は間接的なデータによって補完されるが、生態系の変化を記述するには必ずしも十分とは言えない。例えば、水域生態系を例に取ると、過去に収集された水質データは生態系の栄養状態を知る良い手がかりとなるが、それは生態系の生産構造の一部を断片的に推測できるに過ぎない。また、同様に、ある生物種の長期に渡る個体群動態データが得られたとしても、それは生態系の変動を把握したことにはならない。生物群集の変遷を詳述したデータは生態学的に価値あるものだが、膨大な労力を要する網羅的な調査が長期的に継続されることは稀である。仮に、そのようなデータセットが入手可能であったとしても、生物の個体数の変化から生態系の機能的な変化を直接的に読み取ることはできない。それでは、他によい方法はないだろうか?1つのアプローチとして、本講演では、生物標本の安定同位体分析から過去の生態系を復元する方法を提案してみたい。生物標本は、単に形としての情報や存否の情報を標すだけではなく、生時の生態情報をその体内に記録した、いわばタイムカプセルのようなものである。生物標本の安定同位体分析から過去の生態系に関する情報を抽出する方法の原理や利点、問題点を総括した上で、生物標本を用いて湖沼生態系の長期変動を解析する研究例の幾つかを紹介したい。