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公募シンポジウム講演 S11-3
高山生態系において、消雪時期は植物の開花フェノロジーを決定する主要因であり、集団間の花粉流動に大きな影響を及ぼしている。また、消雪時期をシグナルとして多くの種が一斉に開花するため、ポリネータを巡る局所的な競争が起こる。消雪時期の違い、即ち雪解け傾度は、種内及び種間の遺伝子流動を変化させ、高山植物の集団維持に大きな影響を与えている。北海道大雪山のツガザクラ属植物では、消雪が最も早い場所にエゾツガザクラ(エゾ)、遅い場所を中心にアオノツガザクラ(アオ)が生育する。両者の中間には雑種のコエゾツガザクラ(コエゾ)が優占し、マルハナバチを巡ってアオとの競争が起きている。消雪の早い場所に生育するアオには自家和合性が報告されており、種間競争による花粉制限を補うために進化した可能性が示唆されている(Kasagi & Kudo 2003)。
本研究ではまず、雪解け傾度に沿ったコエゾの形成と集団の維持機構を明らかにするため、花形質の測定と遺伝分析をおこなった。コエゾはエゾとアオの中間的な形質を持ち、双方の種特異バンドをヘテロで保持していた。これらの結果からコエゾはエゾとアオの雑種第一代と結論されたが、親種の分布パターンや開花フェノロジーの違いから、種間交雑が現在でも続いているとは考えにくい。少なくとも消雪の遅い場所に生育するコエゾは、過去の交雑とその後の栄養成長によって集団を維持してきたと推察された。次に、アオの自家和合性に適応的意義があるかどうかを検証するため、雪解け傾度に沿った自殖率と近交係数を算出した。自殖率は消雪の早い場所で90%に達し、遅い場所では40-50%であった。しかし、各集団の近交係数はゼロであり、自殖種子が次世代に貢献しているとは考えにくい結果となった。アオの自家和合性と自殖率、コエゾとの種間相互作用の生態学的意義については、更に検証が必要である。