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公募シンポジウム講演 S11-4
高山の多雪環境に生育する植物では,局所的な消雪時期の違いによって同じ種であっても個体や集団の開花スケジュールに異相が生じる.このような開花フェノロジーの異相は,花粉媒介による遺伝子流動を研究するためのモデル系として,次の特徴をもつ.1)訪花昆虫相が季節的に変化するため,花粉散布パターンの変動が期待される.2)開花フェノロジーの異相によって,花粉媒介による遺伝子流動が制限され,遺伝構造の形成に影響を与えると期待される.本講演では,上記の2つの特徴に関する研究として,キバナシャクナゲの花粉散布パターンに関する調査と,エゾコザクラの集団内の遺伝構造の解析事例から,花粉散布が繁殖成功や遺伝子流動に果たす役割を検討する.
キバナシャクナゲの花粉散布パターンでは,開花早期から晩期にかけて訪花昆虫活性の増大に対応した花粉親の多様性の増加が認められた.しかしながら,開花晩期では種子の稔実率および他殖率の減少と二親性近親交配が認められ,訪花昆虫活性の増加が必ずしも繁殖成功の増加をもたらすものでないことが示唆された.
一方,エゾコザクラの空間的遺伝構造を1.開花フェノロジーが同調するペア(同調),2.開花フェノロジーが分離するペア(隔離),3.全てを込みにしたペア(標準)の3タイプ に分けて解析した結果,遺伝構造の強さは(同調)<(標準)<(隔離)の順となり,フェノロジーの異相によって遺伝構造が増大するパターンが検出された.
開花フェノロジーの異相は,短時間スケールでは訪花昆虫活性の変化を介在して現行の遺伝子流動(contemporary gene flow)に変動をもたらすが,長時間スケールでは,幾世代にもわたる遺伝子流動(historical gene flow)が集団の遺伝構造の形成に寄与していた.遺伝子流動を検討する際の時空間スケールの重要性が示唆された.