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公募シンポジウム講演 S11-5

ユキワリソウの空間的遺伝構造―埋土種子の時空間的動態

*下野綾子 (国立環境研究所), 上野真義 (森林総合研究所), 津村義彦 (森林総合研究所), 鷲谷いづみ (東大・農学生命科学)

植物個体群は目に見える地上個体群の他に、地下に埋土種子集団(土壌シードバンク:SB)を有している。ときには何十年も発芽せずに生き続ける種子もある。種子は空間的分散とともに時間的分散をするユニークなステージといえる。ではSBの空間分布は土壌中に留まっている間にどう変化していくのだろうか。これまでの研究の多くは種子のステージが種子散布を通じて空間的遺伝構造(近傍の個体に近縁者が多いといった遺伝的に不均一な構造)を形成することに着目してきた。一方、本研究は種子のステージはSBとして生き続けることを通じて、空間的遺伝構造の緩和に寄与するという仮説をたてた。その理由として、複数年の種子を蓄積するSBでは各年の種子散布パターンが平均化されること、土壌中に留まっている間に2次的散布を受ける機会が増えることなどが考えられる。調査は、多年草ユキワリソウ(サクラソウ科サクラソウ属)を対象に、長野県浅間山の湿地草原で行った。開花個体と土壌の深さ別に採集したSBを対象に、マイクロサテライトマーカー10座の遺伝子型を決定し、個体間距離に応じた近交係数の変化を解析した。その結果、表層のSBは、地上個体の種子散布パターンを反映しているのに対し、下層のSBは反映していなかった。本調査地は大きな土壌攪乱は無いため、上層は比較的新しい種子が、下層は古い種子が蓄積していると考えられる。さらに、空間的遺伝構造の方角による違いを解析したところ、水流方向の構造が緩和されていた。このことは、種子が水による2次散布により移動していることを示している。よって、ユキワリソウ個体群において長年生き続けるSBは、複数年の散布種子の蓄積および水による2次散布によって、空間的遺伝構造を緩和することが示唆された。

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