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公募シンポジウム講演 S12-2

生態プロセスと陸面プロセスをつなぐモデル(MINoSGI)

横沢正幸(農業環境技術研究所)

生態系における物質(炭素や窒素など)およびエネルギー(熱や水など)は,大気?植生?土壌との間で交換され,その交換量(フラックス)は様々な場面において重要な量として認識され,数多くの観測的・理論的研究が行われている.物質,エネルギーの流れの定量的把握は,環境変化に対する影響予測を行う上で重要であるだけでなく,生態系の構造と機能を総合的に解析するためにも極めて重要な意味を持っている.例えば二酸化炭素濃度や日射強度が変化すると,短時間スケールでは植物個体の光合成,呼吸ならびに蒸散が変化し,長時間スケールでは生長量,群集構造ひいては種組成の変化が生じる.逆に,植生構造の変化に伴って炭素,窒素およびエネルギーの流れが変化し,それが再び周囲の環境を変化させる.このような観点から,我々は生態系における物質・エネルギーの流れを統合的に理解するために,物理環境と植生構造動態の動的相互作用を記述するモデル(MINoSGI: Watanabe, et al., 2004)を構築した.MINoSGIは植物群集の種内・種間競争過程を記述するサイズ構造動態モデル,植生内微気候を再現する多層キャノピーモデルおよび土壌有機物動態モデルの3つのサブモデルから構成されている.モデルは理論に基づいて構成されるが,実験や観測で検証されない限り,いわば「机上の空論」である.特に,環境変化への植物応答の多様さを思うと,モデルは高々「一つの可能性」を示すに過ぎない.それを現実の理解に役立てるには,観測や実験によってモデルを現実と対比する必要がある.最近,各種フラックスや植物の生理生態機能の測定といった,植生と環境の相互作用に関する実験・観測的研究が現実の様々な生態系を対象として行われている.本講演では,MINoSGIの概略,適用例および問題点を紹介しながら観測とモデルの研究交流について議論したい.

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