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公募シンポジウム講演 S12-4
衛星観測が生態系モデリングに貢献するには、主に2つの大きな問題がある:ひとつは、衛星観測はあくまで光学的な情報を集めるにすぎず、それを植物の生理や構造に関する情報に変換するのは簡単ではないということであり、もうひとつは、衛星観測に混入するノイズである。前者は、樹冠放射伝達モデルの逆問題解析や生態モデルとの同化などによって物理的なアプローチが可能になりつつあるが、植生の構造や季節変化に関する制約条件をアプリオリに設定して不確定要因を減らさないと解けない。後者は特に雲やエアロゾルによる系統誤差がいまだに深刻な問題であり、これらのために観測機会が季節的に偏ったり、著しく制限されるということのほか、前者のアプローチにも影響を与える。本講演では、これらの問題の深刻さと、その回避策に関して最近の結果を述べる。
前者については、樹種ごとの適応戦略や遷移段階に基づく知見を地上生態観測とのコラボレーションによって取り込む試みが進行中であり、後者については、実際の衛星観測データを地表面と大気状態の地上観測によって検証し、どのようなシグナルがノイズに埋もれずに生き延びるか、検討している。また、これらの検討を行うには、地上での慎重かつ多面的なデータ取得が肝要だが、地上観測は経済的にも労力的にも多大なコストがかかるにもかかわらず、その成果が十分に公開され、共有されているとは言いがたい。ここに、当該分野の発展におけるボトルネックがある。その状況を改善するために、単に観測データのデータベースを作ろうとするだけでなく、科学的価値の高いデータをしかるべき手続きで公開するという行為そのものを、研究業績として評価するような仕組みを作る必要がある。