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公募シンポジウム講演 S13-7

蝶類の生物多様性保全の現状と課題

石井 実(大阪府立大学大学院)

日本には約240種のチョウ類が分布するが、これまでに絶滅した種は知られていない。しかし、地域個体群レベルでの衰退が著しい種は多く、しかも増加傾向にある。環境省の1991年版のレッドリストには44種が掲載されていたが、2000年版リストでは62種(78タクサ)に増加した。日本の生物多様性の危機要因として、生物多様性国家戦略(地球環境保全に関する関係閣僚会議,2002)では、1)人間の活動や開発による生息場所の破壊、2)里地里山問題、3)外来種や化学物質の影響、の3項目があげられているが、チョウ類の場合もあてはまる。しかし、各種の生息状況の継続的把握(モニタリング)や危機要因の分析(リスク評価)、それらに基づく保全対策は十分とは言えず、日本のチョウ類の生物多様性は減少を続けている。

チョウ類においても、開発、道路建設、森林の伐採、湿地の埋め立てなどによる生息場所の破壊は相変わらず重要な危機要因であり、最近では風力発電施設の建設なども新たな問題を生んでいる。チョウ類の場合、さらに深刻なのが里地里山問題である。チョウ類のレッド種の大半は日本固有種・亜種を含む日華区系・温帯性の要素で、里地里山の二次的自然に依存することで個体群を維持してきた。燃料革命や肥料革命、圃場整備、土地利用の変化、農産物の輸入自由化、農家の高齢化、竹林の拡大などにより変貌を続ける里地里山において、チョウ類の生息場所を確保するのは困難な課題である。外来種問題では、小笠原のグリーンアノールのようにチョウ類に強い捕食圧をかける外来種への対応が緊急の課題である。また、外国産や国内他産地のチョウをむやみに放す「放蝶マニア」への啓発も必要である。

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