| 要旨トップ | ESJ54 シンポ等一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


公募シンポジウム講演 S14-5

里山景観の保全における歴史的な地域研究の必要性

深町加津枝(京都府大・人間環境)

里山景観は,地域ごとに特徴的な地形,植生などの自然環境に規定されながら,土地利用や管理の方法,さらには信仰,年中行事などの特有の地域文化とともに育まれてきた。そのため,里山景観の歴史や地域性を再認識し,丁寧に読み解くことによってこそ,今日の植生景観を深く理解することができる。今日,近代化や都市化により里山をとりまく環境は大きく変化している。薪炭林の放置による植生の変化,農地の管理放棄,大規模かつ画一的な開発の進行による地域固有の景観の消失,生物多様性の低下など,里山をめぐる問題は深刻である。都市近郊のニュータウン開発などによって移入者が増加する一方で,山間部における過疎化が進行し,また,集落組織を通して伝統的に里山の利用や管理に直接関わってきた地域住民は減少の一途をたどっている。里山に暮らす人々のあり方そのものが急激に変化し,地域に根づいた里山と人との関係が喪失しつつあるといえよう。一方,1980年代以降になると,里山景観の保全をめぐる活発な市民活動が各地でみられるようになり,里山の多様な機能と意義が認知されるようになった。このような状況の中で求められるのは,里山景観が維持,形成されてきた動的なメカニズムの解明であり,里山における生態的な意義と文化的な意義を融合するための学際的な研究である。その基礎となるのが,それぞれの地域で展開されてきた人と景観との歴史を見つめ直す作業である。それは,地域の歴史的な文脈を読み解く中で里山景観の要素やその配置の特徴を明らかにするとともに,将来も共有するに値する地域固有の景観の具体像を見いだし,保全していくための地域研究といえよう。

日本生態学会