性選択、すなわちメスによる配偶者の選り好みや(配偶者選択)、メスへの接触を巡るオス同士の争い(オス間闘争)は、オスの行動的、形態的、生理的な形質の進化を促進する。多くの種において、オスは武器や装飾、求愛行動など、複数の性形質を発達させているが、これまでに行われた性選択の研究の多くは、それらの形質のうちのひとつに着目していた。しかし、実際には、メスがオスの複数の形質を基に配偶者を選択していたり、オス間闘争の勝敗が複数の形質の影響を受けていたりする。さらに、メスの配偶者選択とオス間競争は互いに排他的な関係ではないため、これらの二つの過程で異なる形質が選択される場合もある。したがって、メスの配偶者選択やオス間闘争を通じた複雑なオスの行動や形態の進化や、繁殖行動における雌雄の意思決定プロセスを包括的に理解するためには、オスが持つ複数の性形質が、配偶者や対戦者に示す情報や、選択の各過程で果たす役割、それぞれの形質にかかる選択圧の方向を明らかにする必要がある。

本企画集会では、メスの配偶者選択やオス間競争における、オスの繁殖成功に対するオスの複数の形質の影響を、さまざまな生物で調べた実証研究を紹介し、性選択研究の今後の展望について議論したい。

コメンテーター：岡田賢祐(岡大･院･環境生命)