日本生態学会

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国立公園の地方移管に対する意見書

日本生態学会 自然保護専門委員会 委員長 矢原徹一

 平成22年12月の閣議決定「アクションプラン〜出先機関の原則廃止に向けて〜」に基づき、国の地方出先機関の権限と予算、人員を地方自治体に移管すべきだという議論が進められています。明治からの中央集権化の結果、肥大化した国の出先機関を整理し、地方移管することが本来の趣旨ですが、関西広域連合、九州地方知事会等から出されている国立公園の地方移管については以下のような問題があります。国立公園が日本の生物多様性保護の中核的役割を果たすべきものであることにかんがみ、国立公園の地方移管に日本生態学会として反対を表明します。

理由1.国立公園の地方移管は、生物多様性条約COP10で採択された愛知目標に逆行する

わが国の国立公園は、1931年の国立公園法制定以来、80年近い歴史があるが、米国等の国立公園とは異なり、土地所有にかかわりなく指定する地域制公園であり、国際自然保護連合の保護地域国連リストで国立公園(カテゴリーII)に分類されているのは29公園のうち7公園に過ぎない。また予算も人員も少なく、2010年に発表されたOECDの環境保全成果レビューでは、OECD加盟国の水準としては低いレベルにあるという評価を受けている。国立公園を管理する自然保護官(レンジャー)の人員は全国で100人程度の時代が長く続いたが、林野庁からの部門間配置転換を受け入れ、ようやく250人程度に増加してきたばかりである。2011年、ユネスコの世界自然遺産に登録された小笠原諸島も、環境省のレンジャーがおらず、東京都が管理する時代が長く続いた。しかし、世界遺産登録にあたって、環境省がレンジャーを常駐させ、外来種問題の解決に力をいれた結果、ようやく世界遺産登録にいたった。

2010年に我が国で開催された生物多様性条約COP10では、2020年までに達成すべき20の目標を定めた愛知目標が採択された。目標11は、2020年までに,少なくとも陸域・陸水域の17%、沿岸域・海域の10%が、保護地域システムやその他の効果的な手段によって保全されるとともに、効果的・衡平に管理され、広域の景観と連結することを求めている。この保護地域の核となるのが、国が指定し管理する国立公園であり、我が国は愛知目標を達成するためにも、国立公園の質を劣化させず、さらに管理能力を向上させることを期待されている。  生物多様性条約COP議長国として、我が国が率先して愛知目標の達成に努力すべき時期に、国立公園を地方移管することは、国際潮流に逆行するものである。

理由2.国立公園の地方移管は、国立公園の保全よりも、利用を優先することにつながりかねない

 関西広域連合は、山陰海岸国立公園をユネスコのジオパークとして景観保全や地域振興などを総合的に行うため近畿地方環境事務所を地方移管すべき、と主張している。関西広域連合に中国地方から部分参加する鳥取県は、観光振興のため、遊歩道の設置やロケ、イベントでの使用許可権限などを環境省から地方に移したいと主張している。

これまでも国立公園内において、都道府県が率先して道路開発、観光開発などを推進してきた事例は、大雪山国立公園士幌高原道路(北海道々士幌然別湖線)、富士箱根国立公園富士スバルラインなど枚挙にいとまがなく、道路開発、観光開発などの権限を持つ知事が、国立公園の許認可権限まで手にすれば、開発に歯止めがかからなくなるおそれがある。  国立公園の地方移管は、国立公園の保護と利用という二つの側面のうち、利用のみを推進することになりかねない。

2011年12月8日

(この意見書は、内閣総理大臣(地域主権戦略会議議長)、総務大臣(地域主権推進担当大臣)、環境大臣、民主党幹事長(陳情要望対策本部長)、民主党地域主権調査会長に送付しています)

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