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第21回(2021年) 生態学琵琶湖賞受賞者

源  利文(神戸大学大学院 人間発達環境学研究科・准教授)

吉田 丈人(総合地球環境学研究所・東京大学大学院総合文化研究科・准教授)

推薦理由

 源 利文氏 は、世界で初めてマクロ生物の環境DNAメタバーコーディングを成功させた、我が国を代表する環境DNAを駆使する生態学研究者である。彼は、環境DNA分析を用いてマクロ生物の分布調査を飛躍的に効率化する手法を確立した。本手法は、特に希少種の生息や外来種侵入の探索に有用であり、実際にカワバタモロコ、ゼニタナゴなどの新規生息地や繁殖地の発見、外来魚の生息のモニタリング手法の開発に結び付いている。また彼は、当該技術の社会実装に当たって技術の標準化を図り、産官学が協働して標準手法を作成する場となることを目指した一般社団法人環境DNA学会の設立にも関わり、理事および副会長として学会運営に携わっている。源氏は、原著論文100編以上を発表し、これらの論文の総被引用回数は4000回以上であり、主要な論文の発表学術誌は、Limnology、Ecological Research、PLOS ONE、Molecular Ecology Resources、Journal of Applied Ecology、Acta Tropicaなどである。源氏は、開発した手法の国内外での普及にも力を入れており、特に研究が発展途上にあるアジア各国における共同研究や技術指導を精力的に行っている。本手法が国際的に標準化されれば、比較可能なデータが世界規模で蓄積され、水圏の生物多様性に関する膨大な基礎データが将来的に利用可能となるであろう。彼は、本手法を水産資源の持続的利用や、欧米諸国と比較してあまり発展しているとは言えない我が国の感染症生態学分野の発展にも結び付けようとしている。
 このように、源氏の業績は学術的貢献と社会貢献の両面で高く評価できることから、生態学琵琶湖賞にふさわしいと判断され、第21回生態学琵琶湖賞に推薦することとした。

 吉田丈人氏 は、淡水生態系を主なフィールドとし、個体群および生物群集の動態などに関する基礎生態学的研究と、生物多様性保全や生態系管理に関する保全生態学的研究を、生態学の研究アプローチだけでなく学際的・超学際的アプローチも取り入れて進めてきた。国内外の湖沼において、動植物プランクトンの季節動態や空間動態、動物プランクトンの捕食回避行動や防衛形態の変異などに関して、先端的な研究を進めてきた。特に、プランクトンの進化や表現型可塑性による迅速な適応とその個体群動態に与える影響に関する新しい生態学理論の発展に貢献してきた。また、淡水生態系の自然再生に関する研究にも取り組み、地域の多様な関係者と協働する超学際研究を実践してきた。彼は、70編を超える論文や著書を発表しており、これらの論文の総被引用回数は4000回以上である。主要な論文の発表学術誌は、Nature、PNAS、Proceedings of the Royal Society B、Limnology、Limnology and Oceanography、Ecological Researchなどである。彼は近年、生態系の機能を活用した防災減災(Eco-DRR)に関する研究プロジェクトを推進しており、自然災害ハザードに対する人間活動の曝露と脆弱性を減じることによる防災減災と生物多様性保全の両立を目指す研究を進めている。
 以上の点から、今後、吉田氏には生態学の地平を広げる学際研究の推進と共に、社会の多様な関係者との協働を実践する超学際研究の展開が大いに期待されることから、生態学琵琶湖賞の受賞者にふさわしく、第21回生態学琵琶湖賞に推薦することとした。

選考の経緯

 第21回生態学琵琶湖賞には、日本人7名の応募があり、選考は運営委員長より任命された7名の選考委員により行われた(別紙参照)。選考作業は令和2年12月21日より電子メールを用いて開始した。まず、応募者の応募書類を選考委員が精査し、今回応募のあった候補者の専門分野は、全て生態学琵琶湖賞の範疇で扱えるものと判断した。次に、被引用回数などの通常の研究業績の評価に加えて、研究成果の新規性と業績、学術的・社会的貢献、今後の発展性という観点から評価を行った。この選考により、応募者の2名は他の候補者と比べると研究業績がやや見劣りするため、今回の7名の候補者から外すことについて電子メールによる議論を行った(これを、一次選考とする)。
 その後、選考委員全員による選考を、令和3年3月28日、午後1時より、ZOOMを用いたオンライン会議において行った。当該会議では、各候補者の特に優れている研究成果について考慮するとともに、研究成果の社会的影響や貢献面を加え、総合的に評価した。
以上により、本選考委員会はこれら2名を受賞候補者として運営委員会に具申することとした。

選考委員会メンバー:中野伸一(委員長)、今井章雄、大手信人、津田敦、徳地直子、中井克樹、中村太士

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