日本生態学会

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第22回(2023年) 生態学琵琶湖賞受賞者

鏡味 麻衣子 (横浜国立大学大学院環境情報研究院/都市科学部・教授)

徐军(XU Jun) (中国科学院水生生物研究所淡水生態学研究センター・副センター長)

推薦理由

 鏡味麻衣子博士 植物プランクトンに寄生する菌類(ツボカビ)の物質循環における重要性を見出したプランクトンの生態学者である。鏡味氏はこれまでに、The ISME Journal、Limnology & Oceanography、Nature Microbiology、Proceedings of the Royal Society B、Frontiers in Microbiology、Ecologyなどの国際的に重要な学術誌に70編の原著論文を発表し、これらの論文は3400回以上引用されている。鏡味氏は、琵琶湖において夏秋に優占する大型緑藻 Staurastrum がツボカビに寄生され死滅した後、ツボカビがミジンコの良い餌となることを発見した。そして、このツボカビを介した植物プランクトンからミジンコへの物質経路をMycoloopと命名し、寄生性ツボカビの食物網や物質循環における重要性を世界に先駆けて提唱した。
 ツボカビの食物網における役割に関する研究は鏡味氏の研究が端緒となり、国際的な議論が活性化した。特にここ10年の超並列DNAシーケンシングの汎用化に伴い、海洋や湖沼などで正体不明の菌類が多数検出され、その生態解明に世界的注目が集まっている。鏡味氏は、国内外の湖沼において精力的に研究を展開し、正体不明の菌類の多くは寄生性のツボカビであることを明らかにし、菌類の起源の鍵を握る基部系統群の発見にもつながった。鏡味氏は近年、研究対象を氷河・積雪生態系、藻類大量培養系や都市生態系へと広げ、気候変動と絡めた微生物の群集動態研究を展開している。また、自らの研究成果を実社会に適用し、バイオ燃料や栄養補助食品として期待される有用藻類の大量培養の効率化にも貢献している。このように鏡味氏の研究成果は先駆的なものであり、研究結果だけでなく用いた研究手法やデータベースは最近の水生菌類の研究発展を促す重要な基盤となっている。また、鏡味氏は病原菌の野外動態研究の重要性について日本学術会議を通じて行政や政策への反映を求めるとともに、日本語著書の上梓や、シンポジウム企画を通じた啓発活動も積極的に行ってきた。さらに、国際会議での招待講演の機会を通じた国際共同研究を多く発展させてきた。
 以上のことから、鏡味麻衣子博士の業績は学術的貢献と社会貢献の両面で高く評価でき、生態学琵琶湖賞にふさわしいと判断され、第22回生態学琵琶湖賞に推薦することとした。

 徐军博士 は著名な水生生態学者であり、水圏生態系における生態学の理論や実践に多大な貢献をしてきた。徐氏は、Science、Global Ecology and Biogeography、Journal of Applied Ecology、Global Change Biology、Water Research、Ecological Researchなどの国際的に重要な学術誌に118本の論文を執筆し、3100回以上引用されている。徐氏は、中国における魚類、軟体動物、水生植物の多様性パターンを全国レベルで研究し、流域レベルでこれらのパターンを規定する要因を特定した。また、中国政府による環境修復プロジェクト440件の効果を評価し、近年の急速な経済発展による生態系へのダメージは、流域全体に配置された大規模な環境修復プロジェクトへの投資によって軽減される可能性があることを明らかにした。さらに徐氏は、魚類の多面的な多様性パターンの世界的な変化を評価し、その変化に対する人間活動の影響を定量化した。その結果、世界の半分以上の河川で、人間活動が魚類相に深刻な影響を与えていることが明らかとなった。徐氏が主導して行われたメソコスム実験では、気候変動に直面する浅い湖沼の保全に重要な知見が示された。以上のように、徐氏は淡水湖における多様性、種の共存、ニッチ分割、食物網の安定性の新しいパターンを発見した。さらに、中国や世界の淡水生態系を悪化させる複数の人為的なストレス要因が相互に作用していることを明らかにした。このように、徐氏は水生生物の保全と生態系管理にとって重要な科学的貢献を果たしており、当該分野で高く評価されている。
 以上のことから、徐军博士の業績は学術的貢献と社会貢献の両面で高く評価でき、生態学琵琶湖賞にふさわしいと判断され、第22回生態学琵琶湖賞に推薦することとした。

Dr. Jun Xu is an aquatic ecologist who has made significant contributions to ecological theory as well as implementation in aquatic ecosystems. He has authored 118 papers that have been cited over 3100 times in prestigious international journals such as Science, Global Ecology and Biogeography, Journal of Applied Ecology, Global Change Biology, Water Research, Ecological Research. Dr. Xu and his colleagues studied the diversity patterns of fish, mollusks, and macrophytes in China at the national level and identified the factors driving these patterns at the watershed level. They also assessed the effectiveness of 440 Chinese government restoration projects and unearthed that the ecological damage caused by recent rapid economic development could potentially be mitigated by massive restoration investments dispersed across entire catchments. Dr. Xu and his colleagues evaluated the global changes in the multifaceted diversity patterns of fish and quantified the impact of human activities on these changes. In this study, they revealed that human activity has severely impacted the fish faunas in more than half of the world's rivers. Dr. Xu's work also includes conducting mesocosm experiments that demonstrate significant findings for the conservation of shallow lake systems in the face of global climate change. He thus has discovered new patterns of diversity, species coexistence, niche partitioning, and food web stability in freshwater lakes. In addition, he has highlighted how multiple anthropogenic stressors interact to deteriorate freshwater ecosystems in China and around the world. Overall, Dr. Jun Xu's studies have substantial scientific implications for aquatic species conservation and ecosystem management, and his work is highly regarded in the field of aquatic ecology.
According to the above contributions, we have come to the conclusion that we award Jun Xu with the 22nd Biwako Prize for Ecology.

選考の経緯

 第22回生態学琵琶湖賞には、日本人6名と外国人3名の応募があり、選考は運営委員長より任命された7名の選考委員により行われた。選考作業は令和5年1月6日より電子メールを用いて開始した。まず、応募者の応募書類を選考委員が精査し、今回応募のあった候補者の専門分野は、全て生態学琵琶湖賞の範疇で扱えるものと判断した。次に、被引用回数など、主に通常の研究業績の評価に基づいてメールによる審査を行った(一次審査)。その後、令和5年2月23日にオンライン会議を開催し、一次審査に基づいて日本人2名および外国人3名に候補者を絞り込んだ。さらに当該会議において、研究成果の新規性と業績に加え、学術的・社会的貢献、今後の発展性という観点から議論を重ねた。 以上により、本選考委員会はこれら2名を受賞候補者として運営委員会に具申することとした。

選考委員会メンバー:中野伸一(委員長)、大手信人、津田敦、陀安一郎、徳地直子、中井克樹、中村太士

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