日本生態学会

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第15回(2022年) 日本生態学会大島賞受賞者

鈴木 牧(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
中村 彰宏(中国科学院シーサンパンナ熱帯植物園)


選考理由

4名の他薦による応募がありました。まず論文実績や研究の新規性をもとに議論を進めた結果、1名は論文実績や研究の新規性が他の応募者に及ばないと判断されました。次にフィールドを中心とした長期研究を自ら実施してきたかどうかという観点からさらに選考を進めた結果、1名の応募者については、十分な業績はあるものの研究内容が大島賞の趣旨と合致しているとはいえないという点で委員の意見が一致しました。最終的に、鈴木牧氏と中村彰宏氏の2名が選出されました。

鈴木牧 氏
鈴木氏はこれまで、森林生態系を対象としたフィールド研究を実施してきた。とくに、ニホンジカによる森林生態系への直接的・間接的影響と生態系機能の回復機構を解明すべく研究に取り組んでいる。東京大学千葉演習林では、シカ排除と上層木の伐採を組み合わせた野外実験区を設置し、約15年間にわたって植生や土壌の追跡調査を行っている。その結果、シカ密度の森林植生への履歴効果が10年以上に及ぶこと,森林管理放棄がシカによる植生被害を増幅していること、伐採による二次遷移誘導が植生や土壌機能を回復できること、伐採後にもシカ採食が継続すると代替遷移への移行を起こし得ること等を示した。長期にわたる野外での観測と実験により、森森林管理上の課題であるシカ個体群増大による植生被害の対策に資する実学的成果を上げてきたことから、鈴木氏が大島賞の受賞にふさわしいと評価する。

中村彰宏 氏
中村氏は、様々な環境(撹乱や樹高、島嶼、標高、気候)において、森林性の節足動物群集(アリ、クモ、ダニ、ガなど)がどう異なるのかを、長期間精力的に研究し、数多くの成果をあげてきた。学位を取得したオーストラリアにおいて、節足動物群集の多様性と撹乱傾度との関係を調べ、植生回復の指標としての有効性を示した。また珊瑚礁の島々で、節足動物群集と植物の多様性を評価し、外来のアリが入ることにより、在来の節足動物群集が影響を受けることを明らかにした。2013年からは研究拠点を中国南部のシーサンパンナ熱帯植物園に移し、節足動物群集の種多様性や形質多様性が、森林の垂直構造や標高傾度、気候帯によってどう変化するかについて、多くの調査を行い、多数の研究論文を発表されている。これらの研究は、生物多様性の記載的な価値に加え、節足動物の群集構造と環境との関係性を明らかにし、地球温暖化の影響を評価する上でも重要な知見になると考えられる。また林冠研究に力を入れており、林冠研究に関する総説を発表し、国際ワークショップも複数回、開催している。学生の育成や共同研究にも尽力しており、アジア諸国の学生を受け入れ指導している他、国内外の研究者との共同研究も数多く行い、近年は日本生態学会でも活発に活動している。このように、中村氏は、長年にわたり、節足動物群集や林冠の研究を行い、日本との繋がりを維持しつつ国際的に活躍されている研究者であり、大島賞を受賞するに相応しいと評価する。

選考委員会メンバー:石川麻乃、大橋瑞江、小野田雄介、鏡味麻衣子、佐藤拓哉、佐竹暁子(委員長)、辻和希、半場祐子、森章

なお、選定理由紹介順は応募順である。

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