日本生態学会

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第12回(2024年) 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞者

河合 清定(国立研究開発法人国際農林水産業研究センター)
齊藤 匠((チェコ共和国)マサリク大学理学部)
辻 冴月(京都大学大学院情報学研究科)


選考理由

自薦10名の応募がありました。研究の新規性、主導性、波及効果などを踏まえ、一連の研究のもつ発展性に重点を置き、審査を進めました。これに加えて、発表論文数や被引用数、日本生態学会における活動歴も参考にしました。どの応募者も将来の展開が大きく期待されましたが、他の評価基準も併せて総合的に判断した結果、河合清定氏、齊藤匠氏、辻冴月氏の3名(五十音順)を候補者として選出しました。

河合 清定 氏
河合清定氏は、樹木の葉や木部の組織形質の機能的意義を、解剖学的手法と生理学的測定を組み合わせて追及してきた。氏の研究手法は、生育環境の異なる多数の樹種について組織形態を計測するとともに各樹種の光合成特性や水利用特性などを測定・分析し、系統関係をふまえた多種間比較によって環境適応のパターンを検出するものである。氏はこの方法論に基づき、興味深い形態適応のパターンを次々と見出してきた。一部の成果だけをあげても、温帯産広葉樹種の葉脈密度と水利用効率や光合成効率の対応、葉の細脈密度と生育適期の長さの対応、異圧葉と等圧葉の異なる水利用戦略における意義、熱帯・亜熱帯産樹木の木部形質と通水・貯蔵機能との関係性、柔組織の形質と乾燥地における耐乾戦略との関係など、多彩な話題が報じられている。さらに近年、東アジア産ブナ科樹種の種間比較に基づき、葉形質と材形質の経済スペクトルの対応が気候帯依存的に変化する可能性を指摘するなど、機能形質研究をめぐる国際的な議論に新たな方向性を加えている。これらの研究成果は主著11報を含む17報の査読付き英語論文等にまとめられている。また、日本生態学会では大会シンポジウムの共同開催を行い、一般講演においてもポスター賞や英語発表賞を授賞されるなどされている。以上のように、維管束植物の機能形質評価という重要分野において優れた業績を上げ、かつ今後も一層の活躍が期待されることから、河合氏は日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞に相当しいと評価された。

齊藤 匠 氏
齊藤氏は、主に陸水域に生息する貝類を研究対象に、全世界レベルの系統解析、生態ニッチモデリング、ゲノムワイド遺伝型データなどを用いて、これらの分布域、遺伝的多様性、分散パターンを決定する機構を解明してきた。例えば、11種のRadix属の淡水性巻貝についてユーラシア大陸を中心に広範な分布域の個体を解析し、これらの分布域は気候、中でも、年間平均気温と最も乾燥する月の降水量により制限されることを明らかにした。また、海洋島の淡水性巻貝について、系統解析、集団遺伝学的解析、ランドスケープ解析を行い、島内での遺伝的分化には、移動への障壁を越える低頻度の分散が重要であることを明らかにした。これは、生物多様性を維持する上で、距離のみに着目する長距離分散だけではなく、障壁を超えるような遺伝子流動も重要であることを示している。さらに、長距離の渡りを行うオオジシギに付着した移動性の低い淡水巻貝を解析し、この貝がオセアニアから鳥に乗って大陸間を移動する長距離分散を行っていることを発見した。これ以外にも、日本の淡水性二枚貝の多様性と固有性を明らかにするなど、陸水性の貝類進化・生態学的研究を包括的に展開しており、これらの研究成果は16本の筆頭著者論文と23本の共著論文として査読付き国際誌に発表されている。以上のように、齊藤氏は多岐に渡る研究アプローチを用いて貝類の多様化機構を明らかにしており、今後多方面での活躍が期待できる若手研究者であり、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと評価された。

辻 冴月 氏
辻冴月氏は、水中の生物種を特定する技術として発展してきた環境DNA分析を用いて、水生生物の遺伝的多様性の評価方法とその地理的分布に関する研究に意欲的に取り組んできた。これまでの研究成果として、まず挙げられるのは環境DNA分析を用いた種内の遺伝的多様性の検出手法の開発である。申請者は、検出精度や定量性を飛躍的に向上させる手法を編み出すとともに、河川で捕獲したアユを用いてその検出力を実証した。また環境DNA分析を用いて琵琶湖産アユの群間・各群内の遺伝的差異と空間的遺伝構造を解明した。加えて西日本全域で採水を行い、純淡水魚4種を対象として環境DNA解析を行って、その系統地理パターンを見出した。このように申請者は、環境 DNA 分析を水生生物の系統地理研究に適用し、画期的な成果を数多く挙げてきた。申請者らが書いた環境DNA技術に関する総説は、2019年から2020年にかけて、Environmental DNA 誌のTop downloaded paperに連続選出されている。生態学会では、2014年に入会後、全国大会でコンスタントに口頭発表やポスター発表を行ってきた他、地区大会やEAFESでの発表も行うなど、十分な活動を行ってきた。ポスター賞の審査員や高校生ポスター部会の会員も務めており、運営面での貢献も多い。これらの目覚ましい業績と学会活動への積極的な参加により、奨励賞の受賞に相応しいと評価された。

選考委員会メンバー:石川麻乃、大橋瑞江、小野田雄介、佐藤拓哉、鈴木俊貴(委員長)、鈴木牧、瀧本岳、辻かおる、深野祐也、森章

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