第14回(2026年) 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞者
飯島 大智(筑波大学 生命環境系)
岩知道 優樹(東京都環境科学研究所)
大竹 裕里恵(京都大学 生態学研究センター)
富田 幹次(高知大学)
松尾 智成(ワーヘニンゲン大学)
選考理由
17名の応募がありました。研究の独創性や主導性、発展可能性などを踏まえて研究業績を総合的に評価し、会員歴や研究中断期間も考慮して審査を行いました。審査の結果、特に顕著な成果を挙げていると評価された飯島大智氏、岩知道優樹氏、大竹裕里恵氏、富田幹次氏、松尾智成氏を日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞候補者として選出しました。
なお、今回は過去最多の応募数であったと考えられ、将来の発展が期待される優れた応募者も多かったため、選考は容易ではありませんでした。「授賞は毎年原則として3名とする」という規則を踏まえて慎重に審査を進めましたが、上記5名を受賞候補者とすることで意見が一致しました。今回受賞に至らなかった応募者についても、今後のさらなる研究の深化と次回以降の挑戦に委員全員が期待していることを強調したいと思います。
飯島大智 氏
飯島氏は、山岳域や島嶼域に棲む鳥類を対象に、それらの個体群の維持機構や群集の形成機構を解明する野外研究を積極的に展開している。乗鞍岳の山麓から高山帯にかけての鳥類群集を調べ、低標高の群集では人為攪乱による種の追加が起きている一方で、高山帯では厳しい自然環境によるフィルタリングが強く働いていることを示した。さらに、高山帯に棲むライチョウやイワヒバリ、カヤクグリなどの鳥類にとっては、低標高域から流入する節足動物が、餌資源に乏しい繁殖期初めの重要なエネルギー源となっていることを見出した。この成果は、生態系間相互作用を媒介する系外資源の新しい例の発見であるだけでなく、高山性鳥類の保全に資する重要な知見でもある。また、伊豆諸島の鳥類群集の50年間の変遷において、種プールとなる本土群集の変化や、島嶼の土地利用変化、外来捕食者の影響を調べた。本土で分布拡大した種や一腹卵数の多い種の定着が認められた一方で、猛禽類は多くの島から失われるなど、種数の純減や頂点捕食者の消失、群集構造の単純化をもたらす群集集合プロセスを解明し、諸島全域での包括的な生物保全戦略の必要性を議論した。これらの成果は、精力的な野外調査と既存データにDNAメタバーコーディングや群集構造解析などの多彩な手法を組み合わせて得られる重要な基礎研究であると同時に、生物多様性への人間活動の影響についての示唆を深く考察する点において、飯島氏の意欲的な研究姿勢を表している。研究業績はEcologyやJournal of Animal Ecologyなどへの掲載を含め、14報の論文として発表されている。以上をふまえると、個体群-群集-生態系間相互作用から人間活動と生物多様性の共存にまたがるスケールの大きな研究のさらなる将来展開が期待できることから、飯島氏を日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者に相応しいと評価する。
岩知道優樹 氏
岩知道氏は、人間活動に伴う土地利用の変化が地域の生物多様性に及ぼす影響について、東京-横浜圏という世界有数の人口密度を有する都市域をフィールドに、植物を主な対象として研究に取り組んできた。フィールド調査と土地利用データ等を組み合わせることで、局所スケールと景観スケールを同時に検討していること、さらに調査時点だけでなく、過去の土地利用や変化という時間的影響にも着目している点に研究の特徴がある。これら一連の研究成果は、応募時点で共著を含む19編の論文として公表されている。人間活動の影響を強く受けた生態系を対象に研究を展開していく中で、アプローチや対象等、研究の視野が広がっていく様子が窺え、将来的な発展に期待が持てる。特に時間変化に伴い植物群集の形成に影響を及ぼす要因の相対的重要性が変化しうることを明らかにした研究は、それまでの研究蓄積に基づき、長年の疑問を解明した重要な成果である。多くの共同研究者とともに多数の共著論文を発表しており、積極的に共同研究に取り組んでいる点も評価できる。関東地区会においてシンポジウムを企画する等、生態学コミュニティへの貢献も窺える。以上のとおり、都市生態学の分野において優れた業績を挙げ、日本生態学会を中心に今後一層の活躍が期待されることから、岩知道氏は日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞に相応しいと評価した。
大竹裕里恵 氏
大竹氏は、湖沼堆積物コアとその中に残る生物遺骸や休眠卵を用いて長期変動を過去に遡り分析する古陸水学的手法を駆使し、ミジンコ個体群定着過程の長期動態観察を長野県深見池にて行ってきた。その結果、湖沼形成からの時間経過と栄養条件の変化に伴い、群集における優占種が置き換わることを明らかにした。
さらに休眠卵の解析により、深見池のミジンコ個体群の遺伝的多様性の低さにもかかわらず、個体群の形態が捕食者相に対して適応的に変動している可能性を示した。また近年、優占型と遺伝的に離れたタイプが出現したことに着目し、堆積物コアから採集した休眠卵の孵化・飼育実験を行った結果、2つの遺伝子型は日長応答の違いに基づく異なる休眠戦略を取ることを明らかにした。これは、生物多様性がどのように形成され維持されるかという生態学の中心課題にも大きな知見をもたらす結果であると言える。
大竹氏は、動物プランクトンの顕微鏡撮影画像データベースの作成を通し、日本全国の湖沼でプランクトンの採集と観察に取り組んでいる。また、図鑑2冊の執筆、博物イベントでの出展や講演に加え、大阪・関西万博2025におけるプランクトンに関する展示の監修など、積極的なアウトリーチ活動に携わっており、生態学の一般普及に努めている。以上のことから、大竹氏は今後の学会活動や生態学での研究・普及活動における活躍が大いに期待できると考えられ、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)を受賞するに相応しいと評価する。
富田幹次 氏
富田氏は、ヒグマによるセミ幼虫の捕食行動(セミ掘り)に着目し、この行動が地域個体群に定着したプロセスや適応的意義、森林生態系に及ぼす影響を、野外調査や過去の情報収集などをもとに入念に検証している。一連の研究において、富田氏は、セミ掘りが過去数十年における森林環境の人為改変に対するヒグマの適応であること、また、セミ掘りは人工林における土壌の含水率や窒素濃度等を低下させ、樹木の生育に悪影響を及ぼすことなどを明らかにした。大型脊椎動物は、栄養塩輸送や生態系エンジニアリングによる正の効果において着目されがちだが、富田氏の研究は、人工林環境ではそうした従来の認識が通用しないことを示唆する重要なものである。そもそも、大型動物が土壌動物の直接捕食によって、森林生態系に大きな影響を与えること自体が、これまでの生態学で考慮されていない相互作用であった。それを踏まえ、富田氏は大型動物が土壌群集に与える影響について、捕食などの消費的影響、物理的撹乱など非消費的影響など6つの経路に関するレビューを執筆している。地道なフィールドワークを基本としつつ、観察で発見した現象について、既存の概念に一石を投じるまで粘り強く取り組む富田氏の研究姿勢は高く評価できる。富田氏はEcologyやTrends in Ecology and Evolutionなど主要国際誌に13本の論文を出版しており、生態学会のシンポジウム企画などにも精力的に取り組んでいる。以上のように、富田氏はその高い研究遂行能力と独自性において、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者に相応しいと評価した。
松尾智成 氏
松尾氏は、主に熱帯林において二次遷移に伴う森林動態に関する研究において顕著な業績を挙げてきた。氏は、複雑な階層構造が発達する熱帯湿潤林において林内の垂直的な光環境を測定し、丁寧な統計モデリングによって樹木間の光獲得競争が遷移とともに年々激しさを増していくことを示した。さらに、光競争が樹木個体の高さ成長に与える影響や、光競争が種の入れ替わり(種組成の変化)に及ぼす影響を定量的に明らかにした。これらの一連の成果は、二次遷移のなかで、個体から、群集組成、森林構造まで様々なレベルにおける光競争の役割についての統合的な理解をもたらしている。加えて、遷移初期段階に着目した研究にも着手しており、草本から木本への生活形の交代を経て形成された若い二次林において、森林構造や種組成が森林の炭素吸収・蓄積に与える影響に関して、膨大なフィールドワークを通じて明らかにした。このように、氏は「二次遷移の駆動要因の解明」と「二次林の生態系機能の評価」を両輪として研究を進めてきた。これまでの成果は、いずれもJournal of Ecology, Journal of Vegetation Science, Oecologia, Oikos, Functional Ecologyなど植物生態学の主要な国際学術誌に掲載されており、被引用件数も急激に伸長している。短期的な成果が上げにくい熱帯地域の生態学分野において、日本・メキシコ・ガーナなど各地でフィールドワークを行い、共同研究を通じて業績を着実に積み重ねていることは、氏の研究能力の高さを物語っている。また、研究テーマの設定においても、個々のテーマに相互関連性をもたせつつ、熱帯二次林の生態系機能の総合的解明に向けた展開を実現している。このことから、大局的かつ長期的な視野を備えた研究者を目指そうとする覚悟が見られ、今後の森林生態学分野を牽引する研究者に成長していくことが大いに期待されることから、松尾氏は、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)に相応しいと評価した。
選考委員会メンバー:門脇浩明、瀧本岳、深野祐也、工藤洋、深谷肇一(委員長)、山口幸、安藤温子、大澤剛士、佐々木雄大
