日本生態学会

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会長からのメッセージ -その10-

会長退任にあたって

 2020年3月に行なう予定であった第67回名古屋大会をもって、一般社団法人日本生態学会会長を退任いたしました。2016年3月から副会長を、2018年3月から会長を拝命し、この4年間は理事、代議員、各種委員会委員のみなさまに支えられて、楽しい仕事を沢山させていただきました。会員のみなさまの期待や要望に十分に応えることが出来たか、はなはだ怪しいですが、この書面をもってその寛容さに深く感謝いたします。  少し長くなりますが、会長在任中、外向けの活動のなかで特に感じたこと、印象に残ったことを書きたいと思います。

  •  私の任期中で一番大きな出来事は、なんと言っても種生物学会、個体群生態学会と合同で英文3誌を同じプラットフォームで出版出来るようになったことです。論文の出版は研究の根幹ですので、単に財政的な理由だけでなく、日本の生態学や研究者集団の輪郭を明確にするうえでも、大きなステップとなりました。この3英文誌合同出版は、他学会にも少なからず影響を与えたようで、学協会が出版する学術雑誌の新しい形態になったと思います。
  •  2018年8月にESA米国生態学会大会(Portland)、2019年12月にはBES英国生態学会(Belfast)に日本生態学会の会長として出席しました。ESA大会は巨大で、まさにコンベンションです。会長も任期1年で、いろいろとお尋ねすると、事務局に聞いてねという返事が多く、学会としてはしっかりしているものの、私が度々参加する米国のやや専門的な学会大会に比べると、何か顔が見えない落ち着かない感じがしました。
     BESでは英文誌3誌宣伝のため、日本生態学会として初めて他学会でブースを出しました。BESは大変協力的で、ブースの位置もポスター会場の入り口正面に設置させていただきました。おかげで、沢山の研究者がブースに立ち寄り、Population Ecology, Plant Species Biology, Ecological Research誌に興味をもっていただくことができました。Closedの会長ミーティングでは、生態学の研究をいかに政策に反映させるか意見交換しました。私からはあまり発信出来る材料がなかったのですが、政策が実行された段階で異議や意見を唱えるより、そうしないための戦略が重要とのこと。研究成果を政策決定者に説明する機会を増やすことが重要なのでしょう。一方、ブースでは、日本の研究者の名前をあげて共同研究をしているとか、世話になったとか、あるいはどこどこの自然は素晴らしかったとか話され、実に多くの方が日本の研究者や自然と関係持っていることを知りました。また、共同研究を希望されたり、ポスドクなどを探している若手研究者に、JSPSなど日本と共同研究を行なうための助成についても紹介することが出来ました。このような外向きのブース出展は、日本の生態学や研究者の国際的な活動を支えていくうえでも重要なので、今後も続けて欲しいと思っています。
  •  2018年6月には、名古屋でEAFES(East Asian Federation of Ecological Societies)大会がありました。これは、中国、韓国の生態学会と共同で開催しているもので、委員長は持ち回りで、順番により私が委員長を拝命しました。大会は手作りでこじんまりとしていましたが、私が生態学会に参加したころに似て、発表は英語で拙くても、何か大きな可能性を感じさせる雰囲気がありました。アジア地域の生態学研究のレベルは急速に発展しており、欧米だけでなく中国などアジア各国の研究者との交流は、日本の生態学を発展させる上でも、今後ますます重要になってくると思います。その際、このEAFESというプラットフォームを使わない手はないと思います。中国フフホト市で開催予定であった次回EAFESは延期になり、来年夏季に開催予定とのことです。
  •  私が生態学会長に就任したとき、同じ研究科の同僚に分子生物学会長がおり、かねてから分子生物と生態学の融合が新しい研究の道筋の一つになるのではなかと話していいたので、学会として連携することにしました。連携することで互いの研究の認知度を高め共同研究の可能性を醸成することが目的です。幸いなことに、両学会主導でいくつか印象深いシンポジウムを開催することが出来、分子生物学者に生態学の面白さや必要性を伝えたことが出来たと思います。学会は内にも外にも自由な集まりなので、今後もいろいろな学会と柔軟で面白い連携をして欲しいと思っています。それは、生態学者が新しい課題を発見する契機になるとともに、他分野の研究者が私達の仲間に加わる大きなチャンスになるはずです。基礎生物や環境科学だけでなく、農学、土木工学や経済など、生態学が取り組める課題は多くあるでしょう。赤の女王が語るように、生態学はいろいろな課題や新しい研究テーマに取り組むことで、どんどん姿を変え、生き続ける学問だと思います。
  •  残念なことにも触れねばなりません。新型コロナウイルスの影響により、2020年の第67回日本生態学会名古屋大会は中止せざるを得ませんでした。私達の大会は会員のボランティア活動で成り立っています。大会実行委員会委員も大会企画委員会委員もみなボランティアで、自身の時間を犠牲にしながら、1年以上も前から準備を進めてきました。その献身的な苦労を考えると、中止という決断は個人的には受け入れがたいものでした。しかし、新型コロナウイルスのために気が進まない状態での参加者が一人でもいれば、一人でも感染者が出たとしたら、学会としては大きな痛手です。ですので、中止にあたっては、判断基準を極端に安全側に設けて判断しました。中止にあたっては、懇親会場をキャンセルするなど、残念な気持ちであるうえに、さらに辛い仕事をお引き受けいただいた大会実行委員会委員に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。一方で、学会定款には年1回の総会と学術集会の実施が義務付けられています。
     そこで、本大会を楽しみにしていた会員及び大会参加申し込み者に報いるためにも、代議員総会と大会のハイラトである受賞講演会をネットでライブ配信することにしました。ライブ配信にあたっては、名城大学が会場を、京都大学生態学研究センターが技術的協力を快く引き受けていただきました。この場を借りて深く感謝いたします。ライブ配信は実験でもあり、上手くいくなら大会のオプションとして今後も活用できるでしょう。本文は、このライブ配信の前に執筆しており、果たして上手くいくか甚だ不安もありますが、ライブ配信を通じて本大会に関わったすべての会員のみなさまに少しでも報いることが出来たら嬉しく思います。もちろん、ライブ配信に不手際があったとしたら、すべて私の責任です。
  •  会員のみなさまにお願いがあります。第67回日本生態学会プログラムがお手元に届くと思いますが、裏表紙をめくってください。そこには、大会実行委員会、大会企画委員会にたずさわったすべての会員のリストが掲載されています。もし、そこに友人やご存知の名前があったら、次にその方に会ったとき、一言「ありがとう」と声をかけ、労って欲しいのです。よろしくお願いいたします。
  •  生態学会には沢山の賞があります。今年も各賞にふさわしい多くの研究者が賞を授与されました。選考委員会のみなさんには、生態学の地平を広げた素晴らしい受賞者を選んでいただきました。受賞され祝福されたみなさまは、次はぜひとも祝福する側になって生態学を盛り上げてください。日本生態学会の良いスピリッツだと、私は思っています。

 最後になりますが、前・現執行部(幹事長、会計幹事、庶務幹事)のみなさんには私の会長職を力強く支えていただきました。また、事務局の鈴木晶子さん、橋口陽子さんには、いろいろな局面で私が決断しやすい状況を作っていいただきました。みなさんとの仕事は本当に愉快で、多少やっかいな問題でも笑顔を絶やささず楽しく行えたことは、私にとって最大の幸運だと思っています。本当にありがとうございました。

占部城太郎
2020年3月7日

ESJ67

名城大学に集まった受賞者・実行委員会・理事・執行部(esj67サバイバー)のみなさん

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