日本生態学会

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会長からのメッセージ -その2-

「大会の国際化をどう進めるか?」

 任期残り半年となった会長の北島です。遅ればせながら、今回はとても大事なメッセージを発出します。これまで日本生態学会は、会員の皆様のボランティア精神のおかげで、比較的安い年会費と大会参加費によって、誰でも参加しやすい研究交流と若手育成に努めてきました。新型コロナの影響で、オンラインやハイブリッドの取り組みが急速に進み、ポスター発表のオンライン審査など、大変便利な機能も取り入れられました。一方で、やはり人と人の出会い、そこから生まれてくる研究者同士のつながりや新たな研究展開のためには、対面で開催するシンポジウムやセッションは欠かせません。今年3月の札幌大会では対面を基本にした大会を開催し、大成功だったと思います。日本の素晴らしい生態学研究が、世界の生態学研究の一環として認められ、また、海外の新たな研究展開をいち早く知るためにも、海外の研究者との交流を生態学会の大会で進めることはとても重要だと思います。

 この考え方のもと、英語口頭発表賞が導入され、若手の国際的情報発信へのモチベーションに資してきました。若手による英語発表数が増えることは喜ばしいことです。しかし、英語口頭発表賞の審査の負担の大きさが問題となってきました。昨年から2年間かけて、生態学会の将来計画委員会、理事会、会長・副会長は、大会企画委員会と共に英語口頭発表賞の継続について慎重な議論を続けてきました。その結果、2026年3月の京都大会からは、英語口頭発表賞は中断いたします。その代わり、英語口頭発表を行なった若手の全員に、英語セッションで発表したことを履歴書などに書いていただける証明書、そして、心ばかりの記念品を差し上げることにしました。若手の会員の皆様の中には、がっかりされる方もいることと思いますが、審査の準備には舞台裏で大変な苦労があることもご理解いただきたいと思います。審査をお引き受けいただける中堅以上の会員を探すことには大変な時間と労力がかかり、お願いしても自分の専門でないと公平な審査をする自信がないというような理由でお断りされることも多々あります。また、複数のセッションが並行で行われているため、審査員を引き受けていただいた方の大会中の自由度も大いに制約されます。

 しかし、英語口頭発表賞がなくなっても、生態学会として国際化を推進するための様々な努力は続けていきます。また、英語発進力の強化においては、口頭発表以上に良いタイトルと質の高い要旨を書くことが大事だと思います。母国語の癖も理解した上で、しっかりした論理構成の要旨を簡潔に書いて伝える努力をすべく、若手の皆さんに前向きの努力を続けていただきたいと思います。そして、英語発表に挑むことそのものにやりがいを感じてほしいです。ちなみに、私自身は大学院からアメリカを拠点に活動し、発表賞など存在しない世界でキャリアを積んできました。それでも、国際学会で口頭発表する緊張感は、40年以上経った今でも覚えてます。若い時は、話すはずの言葉を全て書き出し、自分の発表を何回も録音して調整してました。それでもマイクを握って声が震えながらも、何十回も練習した冒頭の言葉をなんとか話し始めるあの緊張感は今でも鮮明に覚えています。一番嬉しかったのは、そうやって頑張って発表した後にセッションチェアから「面白い発表だったね」と感想をもらい、また、その日の夕方に、私の発表を聞いてくださった聴衆の間で内容がバズっているという噂を聞いたことでした。その時の発表の内容は、「資源配分のトレードオフに関する機能形質の違いが、熱帯林樹木の生存と成長の間の一般的なトレードオフを説明する」、という今では当たり前の概念ですが、1993年当時は新しい視点でした。ここで言いたいことは、年寄りの昔の自慢ではありません。学会での発表で目指すべきは、賞をもらうことではなく、「あー、これ面白い研究だね。今後この人覚えておこう。」と聴衆に思っていただくことです。ですから、生態学者を志す若手の皆さんに、高い旅費を払わず参加できる日本生態学会の大会の英語セッションを活用してもらい、いつかは海外の学会にも乗り込んでいく踏み台にしてもらえれば、と思います。もちろん、中堅の皆様にも、若手に負けず、どんどん英語セッションを活用していただきたいと思います。

 さらにご理解いただきたいのは、大会の国際化は、英語セッションを充実させることだけでは進められません。日本語が母国語の私たちは、いくら英語を使うことに慣れていても、情報が英語では欠如していることに不便を感じません。しかし、日本語の読み書きができない方には、大会の案内やセッションの内容が一部日本語だけ、というのはとても困ります。ですから、英語のスライドを使って日本語で話す、とか、日本語のスライドを使って英語で話す、というようなバイリンガルセッションは完全に廃止します。京都大会の大会講演要旨プログラムから [B]のマークは消えます。日本語での発表は全て日本語でプログラムに表記し、英語での発表は全て英語でプログラムに表記します。一方で、名札や会場のサインなども、完全に日本語と英語の両方を並記する努力をします。また、昨年のアメリカ生態学会では、「私は〇〇語が話せます (e.g., “I speak Chinese”)」というバッジを名札に貼り付けることができるようになっていました。こういう試みも導入してもいいかもしれません。また、アメリカやイギリスの生態学会にデスクを設けて、日本生態学会が出版する英語3誌の宣伝の努力もしています。そういうところで、「えー、日本にも生態学会あったのね」とか言われて悔しい思いもますが、海外の若手が、ぜひ、大会に参加したい、と言ってくれるのも嬉しいところです。そうやって参加する海外の研究者のみなさんが、大会期間中に困惑することなく、「行ってよかった」、「また行きたい」、「知り合いにもおすすめしよう」というような大会の国際化に向けて、大会企画委員会、大会実行委員会、将来計画委員会、理事会が協力して努力をつづけます。日本生態学会は、会員の皆様の運営へのご参加によって成り立っています。今後とも、生態学会のミッションの実現にむけて、是非よろしくお願いいたします。

2025年9月12日 会長 北島 薫

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