日本生態学会

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会長からのメッセージ -その3-

「分野を越えての研究コミュニケーションと大会スリム化の同時達成をめざそう」

 来年3月の京都での第73回大会には、多くの会員の皆様から発表申し込みがあり、大変嬉しい限りです。ポスター発表の申し込み件数は、ジュニアポスター125件を含めて合計1,130件という過去最大数。企画委員会と実行委員会のみなさまにおかれましては、良い大会の実現に向けて多大な貢献をしてくださってますこと、大変ありがとうございます。前回のエッセーでは、大会の国際化に向けて、英語口頭発表賞がなくなるけれど、学生をはじめ若手の皆様には積極的に取り組んでほしいと書きました。また、バイリンガルという区分はなくすけれど、どちらかはっきりすることで、英語しか話せない留学生や海外からの研究者にも充実した大会になるとも書きました。このことは、英語力を磨いて国際的に活躍したい皆さんにも良いことだ、と個人的には考えます。今回は、ポスター発表も視野に入れて、生態学における良い研究発表とは何か、について書いてみます。

 ポスター審査においては、意欲燃える学生の多くの皆さんは、専門性の深化や新規性を評価してほしいと思っているかもしれません。でも、大会での発表でもプロジェクトや奨学金の申請書でも、専門外の方にわかってもらえないのはよろしくありません。現在のポスター発表賞の審査基準でも、「情報伝達能力」の項目が「研究の質」より先に挙げられてます。「情報伝達能力」の項目に含まれる「良いタイトル」や「わかりやすい要旨」は、多くの人に論文を読んでもらえるためにも重要です。これらは、生態学一般の知識がある誰にでもよくわかりやすいものであるべき、というのが私の意見です。「研究の質」を妥当に評価するためには、ちゃんと研究分野がマッチしている専門家が審査員を行うべき、という意見もあります。でも私は、それは説明が下手なところは補ってあげなくては、というような甘やかしだと思います。学問分野が細分化して「タコつぼ」になってしまうのは、生態学という地域や地球全体の生物多様性や環境問題に重要な学問にとっては特に勿体無い話です。若手の皆さん、ぜひ、自分の専門外の中堅以上の幅広い研究者が立ちどまってくれて、面白い研究だね、と言ってもらえる発表を目指してください。このように、専門を越えてコミュニケーションを磨ける機会こそが、今後、研究者としても社会人としても広い場面で役にたつ経験になる、と私は信じます。

 実は、こんなことを強く思うようになったきっかけの一つは、審査の裏舞台がポスター部会や審査委員をはじめとする会員の貢献に頼り切っている状況です。特に、私たちが長谷川システムと呼んでいるポスター賞審査の仕組みを作ってくださった長谷川成明会員の毎年の努力は多大なものです。代々のポスター部会では、細かいノウハウが引き継がれてきて、運営マニュアルには年々改善事項が加わって、大変複雑なことになってます。一部の会員への大きな負担やそれに依存した運営のために、大会の持続性が軋むようなことになりつつあります。どうしたら、この状況を改善して、大会運営のスリム化や持続性の確保を図れるでしょうか?これは、将来計画委員会から現在の執行部と理事会に託された大きな課題です。

 個人的には、生態系生態学、植物生態学、動物生態学、微生物生態学、土壌生態学、理論生態学、保全生態学、生態学教育、といったより大きな括りでポスター発表の審査を行う方が分野間の交流や新たな発想の種が生まれてくるのではないか、と思います。海外の学会では、そこまで細かく細分化してポスター発表やポスター賞の審査を運営しません。もし、利益相反(審査を頼まれたポスターが実は自分の研究室の学生だった)とかいうことがあっても、それはその場の辞退/交代でなんとかします。生態学会の大会では、せっかく多くの分野の方が集まるのですから、自分の専門分野の発表だけに注力するのは勿体無いと思います。もし、専門性を深掘りする学術交流をめざすなら、それぞれのテーマで規模の小さい集会を開いて密な交流を図る方がいいでしょう。それに対して、分野を越えての学術交流は、大きな大会ならではのポスターセッションのメリットです。

 分野を越えて自分の研究を伝えられることは、海外の大学や研究機関での就職でも、教員や学芸員として講義を行う場合も、保全現場での貢献を目指す場合でも、環境政策にも役にたつ研究をしたい時にも、とても大事です。本当に自分のテーマとその背景を理解していれば、誰にでもわかりやすく説明できるはずです。ESJ73でのポスター審査は、従来と同じ方式で行いますが、将来的には、専門性を越えてのコミュニケーション力に重点を置く審査に移行していくことを願います。なぜなら、それが、将来色々な場面で活躍できる若手の育成の本質だろう、と信じるからです。

2025年11月10日 会長 北島 薫

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