ジュゴンが生息する沖縄島東海岸の亜熱帯サンゴ礁域の保護を求める要望書
米軍による普天間基地の移設決定に伴い、新しい米軍飛行場の建設予定地に名護市辺野古沖が決定された。しかし,現在その付近ではジュゴンが頻繁に発見されており,それへの影響が大いに危惧される海域である。
辺野古沖をはじめとした琉球列島のサンゴ礁海域は,ジュゴンの分布の北限にあたり、かつてそこではジュゴンが豊富に生息していた。しかし、ジュゴンの肉を目的にした捕獲や、定置網や刺し網などによる事故によって戦後激減し、琉球列島周辺ではほとんど絶滅したと考えられてきた。近年、沖縄島の東海岸でジュゴンが何度も目撃され、それを機に1997年から1999年にかけて、琉球列島全域で大規模な生息状況調査が行なわれた。その結果、琉球列島の中でジュゴンの生息しているのは沖縄島中部の東海岸に限られ、繁殖の可能性もあることが明らかになった。しかし、現在その生息数は10頭程度にすぎず,ジュゴンは日本で最も差し迫った絶滅の危機にある哺乳類であることが明らかになった。ジュゴンは昼間はサンゴ礁の外側のやや深い場所で休息し、夜間に浅い海草藻場に索餌にやってくる。したがって、ジュゴンが生息するためには、広い海草群落が存在し、日中の休息場所と夜間の索餌場所との連続性が保たれるとともに、ジュゴンの行動に影響を及ぼすような人間活動が控えられる必要がある。
また、現在日本で唯一ジュゴンが発見されている沖縄島の東海岸は、沖縄沿岸域の中では、比較的良好なサンゴ礁が残っている海域である。サンゴ礁とサンゴ礁との間にはリュウキュウスガモ、ボウバアマモ、リュウキュウアマモ、ウミジグサ、マツバウミジグサ、ベニアマモなどからなる海草藻場が介在する日本では特異なサンゴ礁生態系を形成している。この地域は、サンゴ礁と海草藻場がモザイク状に散在しているため複雑で多様な生物群集が維持されており、その種多様性と学術的価値は極めて高い。この生態系を代表する特徴的な生物がジュゴンである。
米軍飛行場の移転先である名護市辺野古沖は、学術的に貴重な海草藻場とサンゴ礁が共存することが、ジュゴンにとって最適の環境を提供する海域となっている。
飛行場の建設工法は具体的には明らかにされていないが、もし海上基地建設が行われた場合、沿岸海域での大規模な工事となり、海草藻場・サンゴ礁生態系およびジュゴン個体群に重大な打撃を与えるものと予想される。よって,以下の事を要望する。
- ジュゴンが生息する沖縄東海岸のサンゴ礁生態系の生態調査を行うこと
- 辺野古沖への米軍飛行場建設に伴う、サンゴ礁生態系およびジュゴンへの影響を評価し公表すること
- 要望項目2の影響評価の科学的妥当性が認められるまで、米軍飛行場建設を延期すること
- 絶滅の危機にあるジュゴンの保護のためその生息域の環境保護計画を早急に策定すること
以上、決議する.
2000年3月25日
日本生態学会第47回大会総会