上関原子力発電所建設予定地の自然の保全に関する要望書
中国電力(株)は、2011年の1号機運転開始をめざして山口県熊毛郡上関町大字長島に原子力発電所(出力137.3万kWの改良沸騰水型原子炉2機)の建設を計画している。しかし、建設予定地とその周辺には、以下のような希少生物の生育が確認されている。(1)近年瀬戸内海では激減しているスナメリ。(2)希少なハヤブサ、オオタカ(いずれも絶滅危惧種II類)などの猛禽類。(3)貝類の系統進化を解明する鍵として国際的に注目されつつも、従来きわめて稀にしか報告がなかったカクメイ科のヤシマイシンとその近似種。(4)世界でも建設予定地でのみ発見されているワカウラツボ科のナガシマツボ。(5)絶滅寸前とされる腕足動物のカサシャミセン。このような希少生物が集中して生育しているのは、立地予定地の海域が大規模な開発を免れ、例外的によく保全されてきたからである。日本の渚がいたる所で壊滅的な危機に瀕している今日、立地予定地の環境はかけがえのない価値を有している。このような海域の開発・改変にあたっては、きわめて慎重で周到な環境影響評価が必要なことは論をまたないが、中国電力が1999年4月に提出した「上関原子力発電所(1,2号機)環境影響調査書」は、大型事業でありながら、1999年6月施行のアセス法に対応したものではなかった。そのため「生物の多様性の確保および自然環境の体系的保全」という新法の観点にたつ追加調査が必須であるとする山口県知事意見、環境庁長官意見、通産大臣勧告が出されている。これらを受けて、中国電力は、2000年1月から10月をめどとして追加調査を実施中である。しかしながらその調査方法は「これまでに実施した調査法と同一」とされており、上記の希少生物の保全に役立つ追加調査にはならないことが強く危惧される。また、予定地は半閉鎖海域に計画されている日本でも初めての原子力発電所であるため、毎秒190トン排出される温排水が希少生物の生育に対して与える影響に関する正確な予測評価が必要である。
日本生態学会は、本予定地の生態系の重要性の認識の上に立って、中国電力による追加調査の方法を以下の点について緊急に見直して、新しい時代の要請に答えるものとすることを強く要望する。
- 現在行われている追加調査を見直し、希少種の分布や個体数を正確に把握できる方法を採用し、絶滅リスクを予測評価できる内容とすること。
- 生態系への影響評価を実施すること。とりわけ温排水が与える影響について正確な評価を行うこと。
- 建設予定地に生息する希少貝類は、特殊かつ微小な生息地に適応しているため、調査によって生育環境が悪化しないように注意すること。
以上決議する
2000年3月25日
日本生態学会第47回大会総会