日本生態学会

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生態・環境の長期野外研究拠点の整備に関する要望書

 LTER( Long-Term Ecological Research)がアメリカで1983年に開始されて以来、学際的な研究設定の可能な野外研究サイトでの長期研究は、多くの成果を生んだ。とくに、長期間の観測データやそれに基づく解析とメカニズムの解明は近年の地球環境問題に大きな貢献をしている。最近では、この長期野外研究サイトの国際的ネットワーク形成の動きも活発化し、まさに地球規模での学際的・長期的観測網が整備されようとしている。アジア地域においても、東アジア太平洋地域長期生態研究ネットワークが、中国・台湾・韓国を中心に設立されているが、日本のイニシャチブは弱い。

 日本の現状をみると、1970年代にIBP(国際生物学プログラム)によって生態系の機能に関する大きな国際貢献をしたにもかかわらず、そのベースとなった研究サイトの多くがその後の活発な研究活動を維持できずに今日に至っている。また、長期野外研究の多くは研究者の個人的な努力によって維持されるケースが多く、そのため学際的な広がりを持ちにくい。また、データの管理や公開も遅れ、貴重なデータの観測がとぎれたり、死蔵されたりするケースがめだつ。生態的な研究に限らず、水文、物質循環・社会科学などと統合された長期的かつ学際的研究は、今後の生態系・景観・流域管理などに欠かせない研究である。実際に、近年これらの分野を国際的にリードする研究はこうした研究サイトでから生まれてくるケースが多い。したがって、日本の遅れは今後ますます深刻な状況となって生態・環境科学の発展と国際的貢献の大きな障害になると予想できる。

 この状況をうち破り、すこしでも早く日本独自の長期的学際研究を形作るために、日本生態学会は、関係各機関に以下のような要望をする次第である。

(1)長期・学際的野外研究サイトの整備

 日本にも、大学演習林、野外教育施設、国公立研究機関の試験研究ステーションなど、長期・学際的野外研究の拠点となるポテンシャルをもつ施設・研究サイトが少なからず存在する。これらの多くは、経常的に予算や人的資源が不足しており、これまで継続してきた貴重な観測や研究の維持が困難になっている場合が多い。これらの状況を調査し、高い可能性をもつ研究サイトは長期・学際的な野外研究の持続が可能な研究拠点へと整備すること。

(2)長期野外研究ネットワークおよびデータ管理のための予算措置

限られた観測項目でも、長期間継続されてきたデータセットは少なからず存在するが、その多くは存在すら知られず、価値が生かせていない。また、複数の長期研究サイトのデータの広域比較も情報不足によって実現できずにいる。整備された長期・学際的研究拠点を核として、このような小規模でも長期的観測研究を行ってきたサイトや研究者のネットワークを確立することで、こうしたデータや研究の価値を飛躍的に高めることができる。現在、森林生態系、草地生態系、湖沼生態系、水文研究などで、いくつかのネットワークが設立されてきているが、これらを統合しデータや情報の管理を行うことのできる予算措置が必要である。

(3)野外研究に対する長期的な野外研究ファンドの創設

長期研究サイトで収集されるモニタリングデータは、それらが存在することにより新たな研究の可能性を生み、また関連する研究との統合を可能にする。米国LTERでは一定年限ごとの評価により継続の可否を判断しながらも、長期的な野外研究やモニタリングデータの収集を可能にする予算措置が講じられている。日本では、研究の継続のために短期の研究予算を絶えず獲得しなくてはならず、このことが長期継続データ観測を困難にしている。一部の研究に限り研究期間を延長して、観測・研究の長期継続をより容易にする措置が必要である。

2000年3月25日
日本生態学会第47回大会総会

添付資料

① ILTER
② USLTER
③ Harvard Forest(US)
④ Hubbard Brook(US)
⑤ US-LTERにおけるデータ管理
⑥ ECN

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