日本生態学会

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上関原子力発電所に係る環境影響評価についての要望書

 日本生態学会は、2000年3月25日の第47回大会総会において「上関原子力発電所建設予定地の自然の保全に関する要望書」を決議し、(1)スナメリ、ハヤブサ等の希少種の絶滅リスクの把握、(2)温排水の生態系への影響評価を要望した。

 2000年10月18日、中国電力株式会社は「上関原子力発電所(1, 2号機)に係る環境影響調査中間報告」を通商産業省に提出した。通産省は環境審査顧問会・原子力部会を2000年11月9日に開催し、その内容を了承した。さらに山口県知事は、2001年1月29日付けでこの中間報告書においては、「1999年11月25日付けの知事意見は、基本的に尊重されている」との見解を経済産業省資源エネルギー庁あて送付した。

 日本生態学会は、この「中間報告書」について、以下に示す5項目の問題点を指摘し、このような環境影響評価に基づく開発により、日本で唯一残されたと言ってよい内海の貴重な海の生物と生態系に取り返しのつかない影響が及ぶことについて強い危惧を表明するものである。

1.「中間報告書」には影響評価の基礎となるべき、動植物のリストが(陸産貝類を除き)脱落しているばかりか、あらゆる項目において、不十分な検討のまま「温排水や海域埋め立てが各種生物に及ぼす影響が小さい」という趣旨の性急な結論が下されている。

2.生物が生息している環境としての生態系への影響評価は、環境影響評価基本法(アセス法)や「影響評価準備書」への山口県知事意見の中でも求められているにもかかわらず、欠落している。

3.貴重な生物種の生息場所及び近傍の環境の改変がそれらの絶滅リスクをどれほど変化させるかなどの定量的な予測がないため、中間報告書の随所に見られる「影響は少ないものと考えている」などの記述は、既に「科学的でない」と知事意見等できびしく指摘された点である。

4.ハヤブサの繁殖失敗の原因について何ら調査されておらず、ハヤブサが頻繁に利用している発電所予定地の重要性が検討されていない。また、この海域が単なるスナメリの回遊域ではなく、瀬戸内海に残されている唯一のスナメリの繁殖産地である可能性を見落としている。そのため、開発のこれら生物への影響が余りにも過小に評価されている。カクメイ科については,科レベルでの調査があるのみで、影響評価の前提である種の同定さえ行われていない。底生生物についても既知の希少種の記載すらない。リストのある陸産貝類の種の同定には明らかな誤りがある。小島及びその対岸の断崖を生育場としているビャクシンの「移植」など極めて非現実的である。

5.温排水の影響については触れられているが、スナメリの餌の一部となるアジ類、コノシロ類が海水温が1℃上がった場合には、どのような挙動を示し、それがスナメリの生活にどのような影響をおよぼすのかという予測と影響評価がされているとは言い難い。冷却水のとり込み(冷取水)についてはまったく触れていない。すなわち、今回の発電所の冷却水取込み量は1ヶ月間で、平均水深50mの海域の1km(沖合) x 10km(海岸線)の全ての海水を取水するほど厖大であり、そこに生息している浮遊性の卵・幼生・稚仔を壊滅させ、それらの親であるベントスや魚にも致命的な影響を及ぼす危険性に触れていない。

 以上指摘したように、このたびの中国電力の中間報告書は、第47回生態学会総会決議で要望した希少種の絶滅リスクの把握、生態系への影響評価のいずれにもまったく対応していない。前回の要望内容が、「アセス法」が規定する「自然環境の体系的保全」の項目として不可欠のものであることを踏まえ、日本生態学会は、上記の問題点を考慮して、建設予定地の生物多様性に対応した科学的な観点からの環境影響評価を「アセス法」にそって実施するよう、要望する。

以上決議する。

2001年3月29日
日本生態学会第48回大会総会

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