日本生態学会

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細見谷渓畔林(西中国山地国定公園)を縦貫する大規模林道事業の中止および同渓畔林の保全措置を求める要望書

 広島県西部旧吉和村(現廿日市市)の細見谷は、西中国山地に残るよく保全された渓畔林として全国的に見ても貴重である。それだけでなく、低山帯の斜面に発達したブナ林から谷底の平坦地の渓畔林・渓流に到る移行帯が他に類をみない規模(幅約200m、長さ約10km)と良好な保存状態で現存している。渓畔林は、またこの地域の野生生物にとって「コリドー」としてのきわめて重要な役割をはたしていると考えられる。

 最新の調査によれば、渓畔林の高木層は、ブナ、イヌブナ、サワグルミ、トチノキ、ミズナラ、オヒョウ、ミズメ、ナツツバキなど、多様な樹種で構成され、オニツルウメモドキなどの巨大なつる植物が多いなど、極めて多様性に富んだ林相をもつ。林内や林道沿いには、環境省版レッドデーターブック掲載種のオモゴウテンナンショウ(絶滅危惧IA類)、ヤマシャクヤク、ノウルシ、アテツマンサク、広島県版レッドデータブック掲載種のミツモトソウ、キシツツジ、オオマルバノテンニンソウなどが生育している。また、環境省版レッドデータブックの絶滅危惧IB類のクロホオヒゲコウモリが中国地方第二の記録として2002年夏に確認されている。さらに、クマタカを始めとする鳥類・両生類(とくに分布域の西南限のヒダサンショウウオと西限のハコネサンショウウオ、ニホンヒキガエル)、昆虫相などに関する調査結果からも、細見谷の渓畔林がけた外れに種多様性に富み、今日の西南日本では他に例をみない存在であって、国レベルでの第一級の保全対象とされるべきものであることが明らかにされている。

 しかるに、現在、緑資源公団を事業主体として、西中国山地国定公園を縦貫する大規模林道事業(大朝・鹿野線。戸河内吉和区間)が1990年度に着工され、2000年度の林野庁による事業の再評価の結果、事業の継続が決定された。細見谷の渓流にそって自然林を縦貫する予定の未着工の二軒小屋・吉和西区がここに含まれている。2004年度に計画されている当該区間の着工がもし実施されれば、「渓畔林部分は原則として拡幅しない」とする工法をとったとしても、林道沿いに集中して分布する多種の植物種の生育地や小型サンショウウオ類の生息地の破壊は避けられない。また、いかなる種類の舗装工事も林道下を伏流して渓畔に至る豊富な地下水を遮断して渓畔植物群落に重大なダメージをおよぼし、渓畔林の衰退をもたらす恐れが強い。

 広島県は戸河内・吉和区間の事業認可(1976年度)直後の1978年度に特定植物群落・「三段峡の渓谷植生」・「細見谷の渓谷植生」を選定した。この時、調査を担当した研究者は「三段峡の渓谷植生」を樽床ダム~柴木の間、「細見谷の渓谷植生」を水越峠~吉和川との合流点までとし、「細見谷の渓谷植生」を「きわめて貴重な渓谷林」と評価していた。しかし、広島県はこうした指摘に関わらず、大規模林道の予定ルートに当たる部分および水越峠以南の「細見谷の渓谷植生」を除外して特定植物群落を最終的に選定した。「環境影響評価の基礎資料」と位置付けられる特定植物群落の選定において、結果的に細見谷の自然の重要性が過小評価されたことはきわめて遺憾である。

 これらの事実に基づき以下の3点を要望する。

  1. 二軒小屋・吉和西工事区間の事業の中止。
  2. 細見谷地域における地質・生物の公開調査を行うこと。その際、住民・専門家・環境NGO等との合同調査とすること。
  3. 細見谷地域の国有林の厳格な保全措置を講じ、水源林・水辺林管理の新たなモデル地区とすること。

以上決議する。

2003年3月23日  日本生態学会第50回大会総会

提出先: 環境大臣、農林水産大臣、広島県知事、廿日市市長、緑資源公団

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