「生物II」の選択性である進化・生態の両分野を入試の出題範囲とするお願い

平成15年10月30日

○○○　大学学長　殿

日本生態学会会長・巌佐　庸（九州大学 教授）
日本進化学会会長・五條堀　孝（国立遺伝学研究所 教授）

拝啓
　貴学におかれましては、平素より当学会へのご協力を賜り、お礼申し上げます。
　さて、いま各大学におかれましては、新学習指導要領に基づく最初の入試である平成18年度入学試験の出題範囲の議論がなされているかと思います。これに関連しまして、生命科学の適切な理解に鑑み、「生物 II」の出題範囲について、日本生態学会・日本進化学会ともに、以下のようなお願いをする次第です。
　ご承知かと存知ますが、平成15年度より高校で新・学習指導要領が施行され、この中で、「生物II」の構成は以下のようになっております。

（1） 生物現象と物質（必修）
（2） 生物の分類と進化（選択）
（3） 生物の集団（選択）
（4） 課題研究（必修）

「生物II」を履修する場合は、(1)の分子生物学分野については必修ですが、(2)の進化学分野と(3)の生態学分野は、どちらかを選択してよい、となっております。そのため、各大学で、平成18年度入試において、この選択性の２分野の扱いをどうするか、議論の対象になっていると思われます。そこで、当学会からの要望と致しまして、(2)進化分野と(3)生態分野の、双方を出題範囲に含む方向でご検討下さるよう、お願いする所存であります。その理由は以下のとおりです。

1. 進化と生態は、自然界の生物を見るときの科学リテラシーともいうべき知識であり、しかも車の両輪のように両者は密接に関連しあうので、どちらが欠けても不適切である。
2. 生物多様性の消失など地球環境問題を理解する基盤として生態・分類や進化の知識は欠かせない。環境科学の基礎分野として、生物集団の生態・進化の知識や考え方は、重要性がますます大きくなっている。
3. 両分野ともに学習することは、受験生にとってそれほどの負担増とはならない。

　例えば、「物理II」などでは、この選択性の分野には、新たに素粒子・宇宙論・固体物理（バンド理論）などが大学から降りてきて新しい内容として加わりました。そのため、「物理II」は新課程になって単位数が２単位から３単位に増えましたが，教科書のページ数は倍増しており、きわめて過密な内容となっております。そのため、日本物理教育学会から、選択性の内容に関しては入試の出題範囲から外すよう、各大学への要望が出ております。

　しかし、「生物II」では事情は逆であります。これら選択性の2分野は、従来より高校生物の範囲内であり、受験生は（生物IIまでを出題範囲とする大学では）双方を学んで受験していました。今回の措置で、「両方の分野を出題範囲に含む」としても、受験生にとってそれほど大きな負担増にならないと考えられる根拠が、ここにあります。

　事情の違う「物理II」に足並みを揃えて、他の理科の科目でも、「IIの科目」で選択分野が出題範囲から外されるならば、大学入学後に当然必要とされる基本的な知識体系が、高校教育の現場できちんと学ばれない事態を招きかねず、科学リテラシ－の観点から大いに危惧される次第です。

　これらの事情をご検討くださり、何卒、進化・生態の両方の分野を受験生に学ばせるために、「両方を出題範囲に含める」方向でご検討下さいますよう、お願い申し上げる次第です。

敬具

提出先：国立大学54校、公立大学19校、私立大学72校

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