日本生態学会

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緑資源幹線林道、平取・えりも線「様似・えりも区間」の工事中止を求める要望書

 緑資源幹線林道(旧、大規模林道)平取・えりも線の総延長72.1kmのうち、「様似・えりも区間」は、様似町大泉とえりも町目黒を結び、幌満川と猿留川それぞれの源流部となる日高山脈主稜線を横断する延長14.1kmの区間である。この区間は、1973年の大規模林業圏構想から発した同路線の中で、1996年の工事着手時点における自然破壊の批判によって施工されず、その後2000年まで、事業者による一時的中止と再評価の経緯をたどった。ところが、1996年以降の種々の批判に対する充分な回答がないまま、2001年から実質的な工事が着手・再開され、少しずつ進行している。

 日高南部の林道予定地一帯の生態系は、標高約700m以下の低地に位置するが、以下の点を併せて、北海道他地域に認められない、極めて高い価値を有している。

 第一に、この地域の植生は、その自然度が非常に高い。針広混交林が広い面積を占め、隔離分布するゴヨウマツ林、北海道内南限のケショウヤナギ林、ならびに崖地・崖錐(風穴地)に成立する高山性植物群落も認められる。

 第二に、この地域の維管束植物相は、南北両要素が混在する特殊性がある。この植物相は、北海道では日高南部と渡島半島部に隔離分布するモミジバショウマ、日高南部に限られるコゴメウツギなど、著しい隔離分布を示す希少な温帯性植物を含んで、本州以南では連続的に分布する温帯性植物が非常に多い特徴を有している。この特徴は、氷期に北海道の温帯性植物が渡島半島部と日高南部に遺存した結果と考えられている。一方、低地にありながら、カムイコザクラ、トカチトウキ、ヒダカトリカブトなどの北海道固有植物を含む、リシリシノブ、ケショウヤナギなど希少な高山植物や北方系植物が少なくない。これらの出現は、崖地や崖錐など、この地域の地質・地形的特徴と結びついている。以上の南北両要素を合わせて、出現植物約500種の中で、絶滅危惧植物が30種以上を数える(リスト添付)。

 第三に、動物相も同様に豊富であり、シマフクロウ、エゾナキウサギ、6種のコウモリ類(ヒメホオヒゲコウモリ、カグヤコウモリ、ニホンテングコウモリ、ニホンコテングコウモリ、ニホンウサギコウモリ、チチブコウモリ)など、絶滅危惧種が少なくない。とりわけシマフクロウとエゾナキウサギの生息は、それぞれ自然河川と崖錐に結びついている。

 本区間の林道開削は、急峻な地形が卓越する地域、かつ源流域における工事進行によって、上述のような極めて高い価値を有する生態系、車道周辺だけではなく流域全体に多大な影響を及ぼし、同時に下流域への土砂流出によって沿岸に住む人々の生活や漁業へも大きな影響を及ぼすことが危惧される。北海道林務部(1980年)による本路線に関する研究報告書において、幌満と目黒は北海道屈指の局地的多雨地域とされ、崩壊しやすい地質・地形的特徴があいまって林道予定地では土石流などの災害が生じやすい危険性が指摘されている。ところが、森林開発公団(1998年)と緑資源公団(2001年)による二つの環境影響評価書では、上述の自然の特徴は十分把握されておらず、しかも土石流など災害の影響についてまったく問題にしていない。さらに、建設後の排ガス、騒音など、車道における種々の影響についても触れられていない。

 本区間の目的について述べると、林道予定地の大半を占める道有林は、現在、伐採せずに森林の公益的機能を重視する基本方針を掲げており、本林道計画が掲げる目的とまったく合致しない。

以上、本地域の特異かつ希少な生態系を保全するために、日本生態学会は、以下のことを要望する。

  1. 平取・えりも線「様似・えりも区間」の工事を即時中止すること
  2. 1にともない、平取・えりも線全体の計画を見直すこと

以上決議する。
2005 年 3 月 29 日
日本生態学会第 52 回大会総会

提出先: 林野庁長官、緑資源機構理事長、北海道知事

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