日本生態学会

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公益目的事業のチェックポイントへの要望

平成20年3月28日

内閣府 公益認定等委員会
委員長 池田 守男 殿

日本生態学会 会長 矢原徹一

「公益目的事業のチェックポイントについて」では、公益事業が不特定多数の者の利益増進に寄与するかどうかを判断するうえでの留意点が具体的に提示されました。このチェックポイントは、公益認定の審査において実質的な判断基準を与えるものと考えられます。これに対し、生態学の学術団体である本会は、下記の要望を提出します。

(1)事業区分に「研究成果の公表」を加え、この事業の例として下記を明記していただきたい。

  1. 学術雑誌の発行
  2. 学術大会の開催

(2)「研究成果の公表」事業のチェックポイントとして、下記の点を明記していただきたい。

  1. 「学術雑誌の発行」に関しては、専門家によるピアレビュー制を採用するなどにより、一定の質が確保されていること。
  2. 「学術大会の開催」に関しては、大会発表ではなく、大会参加が会員外に広く開かれていること。

要望の理由

 日本生態学会ではシンポジウムの開催、調査研究、政策提言、すぐれた研究の表彰などの公益事業を進めてきました。今後このような公益事業に対する活動をさらに強化する方向で、公益法人化をめざして準備を進めています。公益法人3法の施行後に、一般社団法人として登記を行い、公益認定審査を受ける予定でいます。

 しかし、公益認定等委員会が公表した公益目的事業の事業区分には、「調査、資料収集」や「技術開発、研究開発」はあるものの、「研究成果の公表」が明記されていません。

 他方、公益認定法別表において、公益目的事業の筆頭に「学術及び科学技術の振興を目的とする事業」が掲げられています。

 「学術及び科学技術の振興」にあたっては、「調査、資料収集」や「技術開発、研究開発」を行なうだけでなく、その成果を学術大会や学術雑誌で発表し、誰でも利用できるようにすることが必要不可欠です。このため、日本生態学会をはじめ多くの学会では、学術大会の開催や学術雑誌の刊行に会費収入の大半を支出しています。もし万が一、学術大会の開催や学術雑誌の刊行が公益目的事業とみなされないならば、「学術及び科学技術の振興」に主要な役割をになう学術団体の大半が公益認定を受けられないことになります。この事態は、「学術及び科学技術の振興を目的とする事業」を別表の筆頭に掲げる公益認定法の趣旨から逸脱したものと考えられます。

 「研究成果の公表」は、事業区分として記されている「技術開発、研究開発」と「講座、セミナー、育成」の間に位置する事業です。公的機関において行なわれる「技術開発、研究開発」は、「研究成果の公表」を経てはじめて、科学者の間で認められた成果となり、「講座、セミナー、育成」などによる普及の対象となります。しかしながら、「技術開発、研究開発」が政府の科学研究費補助金などによる大きな支援を受けており、「講座、セミナー、育成」などの普及活動に対してもさまざまな助成制度がある一方で、学術雑誌の発行や学術大会の開催などの「研究成果の公表」事業は、科学者が中心となって組織している学会の会費や参加費収入によって成り立っている場合がほとんどです。このような事業を、学会員による共益事業とみなすのは不適切であり、「技術開発、研究開発」を誰もが利用できるようにするための公益事業として位置づけるべきです。

 学術雑誌では、専門家によるピアレビュー制が一般的に採用されています。ピアレビュー制では、審査員によって公表の水準に達していないと判定されれば、却下されます。このような審査プロセスがあることによって、研究成果をめぐる競争的環境が維持され、科学の絶えまざる発展が実現されています。

「研究成果の公表」事業の公益性に関するチェックポイントとしては、専門家によるピアレビュー制を採用することを例にあげれば、一般的な出版事業との区別は明確になると考えます。

 「学術大会の開催」に関しては、多くの学会において発表者を会員に限定しています。これは、「学術大会の開催」が商業的には成り立たず、会費を徴収することで大会開催費用を捻出しているからです。したがって、発表者を会員に限定することで、「不特定多数の者の利益増進に寄与」していないと判断すべきではありません。「学術大会の開催」の公益性は、大会で発表される研究成果を誰もが享受できるかどうかで判定されるべきです。したがって、大会参加が会員外に広く開かれていることが重要だと考えられます。

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