日本生態学会

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上関原発予定地の公有水面埋立免許延長申請を不許可とすることについての緊急要請

日本生態学会自然保護専門委員会 委員長・矢原徹一

 2012年10月5日に中国電力株式会社が山口県に申請した瀬戸内海周防灘長島の上関原子力発電所建設予定地の公有水面埋立免許の延長申請をめぐって、貴職は延長を不許可とする方針を、知事選挙期間中および山口県議会での答弁等で繰り返し述べられている。しかるに、県庁から事業者への2度にわたる問い合わせ等の結果、通常1か月程度とされる不許可の決定が著しく遅延する結果となっていることは、まことに遺憾である。当該海域の自然の価値と、2011年3月11日以降明らかとなっている原子力発電所の事故の生態系への影響の大きさを踏まえて、早急に公有水面埋立免許の延長不許可を決定されるよう、強く要望する。

 生物学研究者の組織である3つの学会(日本生態学会・日本ベントス学会・日本鳥学会)は、当該海域が世界に誇る内海の生物多様性の宝庫であり、将来の瀬戸内海の生態系の再生にとって不可欠の場所であることを、これまで再三にわたって指摘し、自然豊かな海域を破壊する強引な埋立工事の中断と、適正な調査の実施を強く求めてきた。さらに、日本生態学会は、2010年10月に名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の関連イベントにおいても、この問題の重要性を強調したところである。

 埋立工事海域には以下のような保全が必要な希少野生動植物が生息・生育している。

 腕足動物、カサシャミセンなど2種;軟体動物(貝類)、ナガシマツボなど27種;環形動物(ゴカイ類)、オミナエシフサゴカイなど4種;棘皮動物、イボカギナマコ;脊索動物、ヒガシナメクジウオとミミズハゼ類7種;海藻・海草類、スギモクなど3種。これら45種の希少生物は、海岸とそこに続く浅海に生息・生育する種であり、埋立工事により生息が直接的に脅かされ、生息地が破壊されるものである。

 また埋立工事海域は、国際的希少野生動物であるスナメリ、オオミズナギドリ、ウミスズメ、カンムリウミスズメなどの回遊・飛来・子育て域であり、多数の作業台船の来航はその生息を脅かすと共に、埋立工事はこれらの種の餌場となる海洋生態系を破壊するものである。さらに、ミサゴ、ハヤブサなどの海岸域を生活場とする鳥類にとっても、工事による環境撹乱は生息の脅威になると考えられる。本委員会の調査によって、長島の原発建設計画地周辺では、山口県のレッドデータブックに記載された鳥類が40種確認されているが、そのうち今回の埋立工事の影響を強く受けるものは11種にのぼると考えられる。

 中国電力は、こうした多くの希少野生動植物の生息状況の把握、全体的な生物多様性の把握、その保全対策が極めて不備なまま、埋立工事を強行しようとしてきた。こうした姿勢は、企業にも環境倫理が強く求められる今日の社会では、到底許容されるものではなく、監督官庁の責任者としての山口県知事の責務もまた重大であると言わなければならない。

 この埋立工事は、山口県が定めた以下の環境基本条例第三条2の条項にも反する。「環境の保全は、環境への負荷をできる限り低減することその他の環境の保全に関する行動がすべての者の公平な役割分担の下に自主的かつ積極的に行われることにより、健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会が構築されることを旨として、行われなければならない。」

 本委員会は、貴職が、中国電力株式会社の公有水面埋立免許延長申請を不許可とする決断を早急に下し、国際的な公約である生物多様性保全(わが国が誇る代表的な「ホットスポット」の保全)に取り組まれることを強く要望する。

以上

送付先:山口県知事

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