日本生態学会

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沖縄県名護市辺野古・大浦湾の米軍基地飛行場建設に伴う埋め立て中止を求める要望書

 沖縄県名護市の辺野古および大浦湾一帯は、サンゴ礁に隣接して海草藻場やマングローブ、内湾の細砂底といった環境が混在し、生物多様性が極めて高い地域である。この地域は、国内最後のジュゴン個体群をはじめとする多くの絶滅危惧種の生息地であり、また、未記載種の発見が相次ぐ海域でもある。日本全体でサンゴ礁の衰退が懸念される昨今、サンゴ礁生態系が本来内包する環境の多様性と連続性を色濃く残す本海域は貴重な存在である。そしてまさにその海域に米軍飛行場の建設が計画され、今年その埋め立てが申請されようとしている。この貴重な海域の生態系と生物多様性が失われぬよう、ここに埋め立ての中止を要望する。

 日本生態学会は2000年3月、この海域の詳細な生態調査の実施と、それをもとにしたジュゴンの保護計画の立案を求める要望書を決議し、国や沖縄県に提出した。国は「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価」(辺野古アセス)を行ない、この海域の生物多様性と生態系の重要性を評価し、基地建設による環境への影響を認める一方で、「環境に影響の少ない工事方法等」を提案している。本計画の実施は、沖縄県知事も辺野古アセスに対する意見書で「環境を保全することは不可能」と断じているように、以下のような理由で、大きな問題点がある。

  1. 近年この海域に、アオサンゴの大コロニーが存在すること、国内での絶滅が危ぶまれていた褐藻類ウミボッスが生息することなどが明らかになった。さらに、甲殻類、ナマコ類、貝類、藻類など、本アセスでも触れられていないさまざまな分類群の未記載種の発見が相次いでいる。この中には、オオウラコユビピンノのように、世界で当海域でのみ確認される種も存在する。埋立によってこの海域一帯の自然環境を損なうことは、日本における生物多様性の宝庫を失うことになる。
  2. 国際的な保護動物であり、国内では絶滅の危機に瀕しているジュゴン個体群の維持と回復のためには、大浦湾一帯と周辺域を含めて、広範囲に渡る連続的な海域の保護と、餌となる海草群落の保全が必須であり、本計画の実施はジュゴン個体群の維持に大きな影響を与えると危惧される。
  3. 環境の多様性と連続性はこの海域の大きな特徴である。この海域には、造礁サンゴ類の種多様性が高いサンゴ群集、県内最大規模の海草藻場、多くの未記載種が発見された転石斜面、国内では珍しい礁原内に発達する細泥底などの変化に富んだ環境が隣接して存在する。また、周囲にはイタジイやオキナワウラジロガシを主とする深い森林が存在し、河口には名護市の天然記念物であるマングローブや干潟が発達するなど、総じて高い自然度が維持されている。これらの環境は、水循環により、また、河川を遡上するリュウキュウアユやボウズハゼ類の移動によって、互いに境界無く連続している。このような生態系のつながりや生態系機能が本アセスでは見落とされている。このような欠陥を持ったアセスメントに基づく環境対策では、本海域を含む自然環境の保全は不可能である。
  4. 埋立には大量の土砂が必要であるが、本アセスでは、土砂採取が環境に与える影響は調達先の責任であるとし、全く触れていない。県内から海砂を採取した場合、サンゴ礁生物多様性の一部である砂底上の生態系を直接損ねるだけでなく、周辺の砂の移動を招き、隣接生態系にも影響を及ぼすことは確実である。また、本土からの埋立資材の調達案に関しても、外来種侵入に対する実効的な対策は示されていない。埋立工事の進行は、沖縄のサンゴ礁生態系に致命的かつ不可逆的な影響を与えることは明らかである。

 以上のように、この海域の自然は生態学的に見てきわめて貴重なものであり、本計画はこの海域だけでなく、沖縄県全域のサンゴ礁生態系と生物多様性に深刻な影響を与えるものである。日本は、先進国の中で唯一、自国内にサンゴ礁生態系を持ち、それゆえに先進国の中で最高の海の生物多様性を誇っているが、本計画はそのようなかけがえのない宝を自ら損なうような、誤ったものである。生物多様性条約(CBD)のCOP10で約束された愛知ターゲットを率先して推進する義務を負った日本が、その目標の保護区を拡大するのではなく、生物多様性を大きく損ねる可能性の高い本埋立計画を推進することは、世界の期待を大きく裏切ることにもなりかねない。

 日本生態学会は、沖縄の海の生物多様性がジュゴンとともに未来に引き継がれるために、本海域の埋立計画を中止することを強く要望する。

以上決議する。
2013年3月8日
第60回 日本生態学会大会総会

送付先:防衛大臣、環境大臣、沖縄防衛局長、沖縄県知事

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