沖縄県辺野古・大浦湾のサンゴ礁生態系の環境アセスメントを求める要望書
日本生態学会自然保護専門委員会
防衛大臣 岩屋 毅 殿
沖縄防衛局長 田中利則 殿
環境大臣 原田義昭 殿
沖縄県知事 玉城デニー殿
米軍基地飛行場建設の埋立工事が行われている辺野古・大浦湾の海域は、その深く切り込まれた独特の地形により、サンゴだけでなく、海草や海藻の藻場、泥底、細砂底、砂礫底など多様な環境からなる世界的にも貴重な内湾性サンゴ礁生態系です。この海域に対する埋立工事の影響について、環境影響評価がすでに実施されており、防衛省の環境影響評価書によると226種の絶滅危惧種の海域生物が記録されています*1。愛知目標12「既知の絶滅危惧種を絶滅させない」の達成に責任を負うべき日本は、これら絶滅危惧種に対して適切な保全対策をとるべきです。大浦湾の内湾性サンゴ礁生態系保全に関しては、2014 年11 月11 日、自然史研究に関わる19 学会の連名で「著しく高い生物多様性を擁する沖縄県大浦湾の環境保全を求める19 学会合同要望書」*2を関係者(防衛大臣、沖縄防衛局長、環境大臣、沖縄県知事)に提出いたしました。しかし、その要望にもかかわらず、辺野古・大浦湾の埋立て工事が開始されました。
大浦湾一帯は、我が国の中でも極めて生物多様性の高い地域で、世界の生物多様性のホットスポットのひとつと認識されています。ヤンバルの深い森から流れ出る大浦川の河口には名護市の天然記念物であるマングローブ林が発達し、その沖には干潮時に干潟が発達しています。浅瀬には海草藻場が広がり、砂地、泥底、サンゴ礫の重なるガレ場には、それぞれの環境にしか生息できない生物が数多く存在します。湾口から湾奥に向かって走る谷は、辺野古崎周辺で水深60m以上にもなります。これらの独特な環境が隣り合って、世界的に見ても貴重な大浦湾独自の生態系を形成しています*3。とくに、大浦湾埋立予定地東部では、長島と中干瀬の間で、深さ60m以上の海底谷に向かって急傾斜の斜面が形成されており、この斜面上にシルト・粘土分の多い底質が分布しています。この斜面・海底谷は、海水面が低下していた時代の、大浦川の氾濫原・河床と考えられます。この斜面・海底谷には、その地形・環境の特異性から、未記載種を含む特異な生物の存在が予想されます。しかし、防衛省の環境影響評価では、少数地点で小型の採泥器による調査しか実施されていません。小型の採泥器を用いた調査によって明らかにできるのは移動性の低い小型の底生生物だけであり、その他の生物についてはダイビングによるライントランセクト法などを用いた、より詳細な調査が必要です。
大浦湾の埋立予定地東部の海域で軟弱地盤が新たに公式に確認されたことを受けて、砂杭を7.6万本打ち込む工法への変更が計画されています*4。この設計変更にともない、環境影響評価を新たに実施する必要があります。この計画変更は、環境影響評価法が認める軽微な変更であるか否かは判断できません。そのため、方法書から環境影響評価をやり直すことが必要です。
日本生態学会自然保護専門委員会は、砂杭を打ち込む工法への変更を行う海域について、生物多様性調査を含む環境影響評価を実施することを要望します。日本生態学会自然保護専門委員会は、この調査実施にあたり、調査方法への助言などの点で協力を惜しみません。
参考文献
*1 沖縄防衛局(2011)『普天間飛行場代替施設建設事業建設に係る環境影響評価書』6.13. 沖縄防衛局
*2 日本生態学会・自然保護専門委員会関連の要望書・意見書(http://www.esj.ne.jp/esj/Activity/2014Ohura.pdf)
*3 ダイビングチームすなっくスナフキン(2015)『大浦湾の生き物たち-琉球弧・生物多様性の重要地点、沖縄島大浦湾』. 南方新社
*4防衛省(2019)『地盤に係る設計・ 施工の検討結果 報告書』. 防衛省
本件に関する問い合わせ先
日本生態学会自然保護専門委員会委員長
吉田正人(筑波大学大学院教授)