第3回(2005年)日本生態学会賞受賞者
廣瀬 忠樹(東北大学大学院生命科学研究科・教授)
選考理由
廣瀬忠樹氏は,植物群落の生産構造における窒素利用の意義について早くから注目し,葉緑体,個葉,個体,個体群,群集とさまざまなスケールにおいて展開された研究は,多くの国際誌に掲載され,国際的に高く評価されている.
窒素利用効率と物質生産、とくに生活型、地上部/地下部比、栄養成長と繁殖成長などの植物器官に着目した光合成産物の分配との関係、群落の生産構造や個体密度、光、栄養塩などを制御した群集構造や種間関係と窒素利用との関係などについて、すぐれた着眼にもとづくモデル系を構築して解明していく手順には定評がある。これらの研究はまさに先駆的なもので,次世代の研究に大きな影響を与え,生理生態学分野の展開,発展に貢献した.
また,廣瀬氏は国際共同プロジェクトでも指導的な役割を果たした.IGBP(International Geosphere-Biosphere Programme 地球圏―生物圏国際共同研究計画)においては,GCTE(Global Change and Terrestrial Ecosystems 地球変動と陸域生態系)のSSC (科学運営委員会)メンバーになり、国際的に活躍するとともに湿潤モンスーンアジアにおける森林生態系の傾度分析に関するコアリサーチTEMA (Terrestrial Ecosystem in Monsoon Asia モンスーンアジア陸域生態系に及ぼす地球変化のインパクト)を日本からはじめて提案,採択され、現在でも多くの研究成果を挙げていることは特筆に値する.このコアリサーチに関連して Tasks for Vegetation Science シリーズの33巻として出版した Global Change and Terrestrial Ecosystems in Monsoon Asia (T. Hirose & B.H. Walker eds. 1996) は初期のIGBP研究の成果を広く国際的に認知させる一翼を担った。
さらに,廣瀬氏は,国際的に大きな影響力を持つ学術雑誌(Oecologia, Annals of Botany)の編集委員として活躍し,日本の多くの若手研究者ために海外への登竜門を開き、多くの優秀な後継者を育成した.
以上のように廣瀬氏は,研究業績,国際性,指導性,いずれの点においても高く評価でき,日本生態学会賞受賞候補者選考委員会は,同氏を第3回(2005年度)「日本生態学会賞」受賞候補として選定した次第である.
選考経過
選考委員全員は,廣瀬忠樹氏の研究業績,指導者としての実績を高く評価し,同氏を候補者として選定することに多くの議論を費やすことはなかった.
選考委員会の議論は,「日本生態学会賞」の性格づけと推薦方法をめぐって展開された.宮地賞が奨励賞としての性格を鮮明にし(おもに40歳までの会員を対象),功労賞は学会への貢献を重視し,定年退官後の会員をおもな対象者として想定するならば,「学会賞」は40歳から60歳くらいまでの会員を対象として,受賞後も指導的立場で活躍してしていただける方が望ましい,という意見で出席者の一致を見た.また,受賞後にも生態学会のために活躍していただく人材をできるだけ多く輩出することがのぞましいことから,受賞者を毎年選出できるよう,推薦制度を検討する必要があるとの認識でも出席者は一致した.
「40歳から60歳くらいまでの会員を対象として,受賞後も指導的立場で活躍してしていただける」会員となるとその多くは,全国委員,常任委員などを務めていると思われるので,現在の推薦制度では「互選」のようになってしまうので,推薦されにくいのではないかと思われた.そこで,現在の公募制度は残しながらも,受賞経験者などを中心とする推薦委員会を設置して毎年確実に推薦者を得られるようにすることが望ましい,との見解に達した.
会長におかれましては,選考委員会の上のような議論をご理解の上,推薦委員会について検討いただきますようお願いいたします.
選考委員会メンバー: 占部城太郎 大澤 雅彦 加藤 真 河田雅圭 齊藤 隆(委員長) 中静透 樋口広芳
大澤委員,中静委員は選考委員会に欠席したが,メイル連絡によって,選考に関わった.