第14回(2016年)日本生態学会賞受賞者
北山 兼弘(京都大学大学院農学研究科・教授)
曽田 貞滋(京都大学大学院理学研究科・教授)
選考理由
生態学会賞には北山兼弘氏、曽田貞滋氏の推薦があったが、いずれもすぐれた研究業績を上げていたことから、両名を受賞候補者として選定したことを報告する。
北山兼弘 氏
北山兼弘氏は主にハワイとキナバル山の熱帯林の生態系生態学研究において、世界的に評価される顕著な業績をあげてきた。ハワイではVitousek氏らとの共同研究をとおして、500万年にわたる陸上生態系の発達・老化過程の中で土壌と植生の機能の連環を動的に捉えることに成功した。キナバル山では、標高と土壌栄養条件の違いと植生との対応関係を明らかにするために調査地配置を自らデザインし、植物生態学的手法と生物地球化学的手法を有効に組み合わせて、環境勾配に対する生態系の構造と機能の変化の有り様を詳細に記述した。これにより、環境勾配に沿って種が交代することで景観スケールでの生態系機能が維持されるという、種多様性の意義の一端を明らかにしたことが高く評価される。また、北山氏は熱帯林の持続的管理に関する国際共同プロジェクトを立ち上げ、炭素貯留と生物多様性を低コストで定量的・効果的に評価する手法を共同で開発した。この成果はREDD+にも貢献するものであり、ボルネオ島における森林管理の現場に活かされつつある。これらの成果はEcology, Journal of Ecology, Oecologia, Global Ecology and Biogeography, Ecological Researchなどの国際誌に80編以上の学術論文として発表されており、論文の総引用回数も3700回を超えている。北山氏には、これまでの経験を生かした日本生態学会への益々の貢献が今後期待される。以上のように、北山兼弘氏は研究業績、国際性いずれの点においても高く評価されることから、日本生態学会賞の受賞者として相応しいと判断する。
曽田貞滋 氏
曽田貞滋氏は、昆虫を中心とした動物の種多様性の進化的機構・生態的維持機構を解明するため,野外研究・室内実験・分子系統解析等を含めた多角的手法を組み合わせた実証研究を進めてきた。特にオサムシの生態および進化研究を中心として、日本における昆虫の適応と分化の理解に大きな貢献を果たしてきたことは高く評価され、特にオオオサムシ亜属、クロナガオサムシ亜属の種やマイマイカブリを対象とした、系統関係、体サイズの種内・種間変異、種分化、交尾戦略、生殖隔離、適応の遺伝的背景の研究の成果は特筆に値する。一連の研究成果は、Evolution, Ecology, American Naturalist, Molecular Ecology, Nature Communications, PNASなどの著名な国際誌を含む学術誌に約150編の論文として発表され、総引用回数は2850回を超える。国際的にも当該分野の研究者コミュニティーに大きな波及効果を与えた。また、曽田氏は我が国における、分子生態学的手法の導入の先駆者であり、優秀な生態学者を多く育てている。これらの先進的研究における成果に加え、インドネシアで昆虫個体群の長期調査を実施し、東南アジア熱帯でのフィールドの基礎情報収集も大きく貢献した。さらに、長年の研究成果をまとめた和文著書により、社会に対する生態学の普及に大きく貢献した。雑誌等での解説記事も多く、また、海外の生態学の教科書の翻訳にも貢献している。曽田氏には、これらの経験を生かした日本生態学会への貢献も今後益々期待される。以上のように、曽田氏は研究業績、国際性および指導性のいずれの点においても高く評価できることから、生態学会賞の受賞者として相応しいと判断する。
選考委員会メンバー:大園享司,中野伸一,野田隆史,工藤洋,近藤倫生(委員長),松浦健二,鏡味麻衣子,日浦勉,吉田丈人