第22回(2024年)日本生態学会賞受賞者
工藤 洋(京都大学生態学研究センター)
選考理由
他薦2名の応募がありました。両名とも、卓越した研究業績を有しており、その新規性や発展性、生態学全般への貢献が高く評価されました。しかし、1名については日本生態学会での活動歴が乏しく、審査が難航しました。最終的に、コミュニティにおける指導的貢献を評価の一基準とする本賞の趣旨を尊重し、本年度は工藤洋氏1名を候補者として選出しました。
工藤洋 氏
工藤氏は、植物生態学の分野において顕著な研究業績をあげてきた。クローン植物の遺伝構造に関する研究、アブラナ科植物の生態・進化・分類に関する基礎研究などの研究から始まり、近年では、自然環境下での遺伝子発現、エピジェネティクス解析を基軸にした分子生態学研究を中心に精力的に取り組んできた。フィールド生態学において、現代的な分子生物学的手法をいち早く導入し、自然条件下における遺伝子の機能の理解、特に植物のフェノロジーや季節調節における遺伝子発現制御の役割を解明した研究が主な研究業績である。多検体RNA-seq解析による網羅的遺伝子の季節発現データの解析、ゲノムワイドChIP-Seq法によるヒストン修飾を介したクロマチン環境記憶の実証などの研究成果によって、分子フェノロジーという新しい分野の発展に貢献してきた。また、我が国の分子生態学の発展において中心的役割を果たしており、国際共同研究によって世界的な分子生態学の研究拠点の一つとして重要な機能を担ってきた。氏が行ってきた一連の生態学研究のインパクトの高さは、論文の被引用回数がすでに3700回を超えていることから明らかである。特筆すべきは、2010年代中頃から急速に引用数が伸びており、近年になってその研究業績のインパクトはますます高まってきているといえる。このように、国内外の生態学における新たな研究展開に指導的役割を果たしてきており、生態学会賞に値すると評価された。
選考委員会メンバー:石川麻乃、大橋瑞江、門脇浩明、鈴木俊貴(委員長)、鈴木牧、瀧本岳、辻かおる、深野祐也、森章