第2回(1998年)日本生態学会宮地賞受賞者
受賞者:酒井聡樹(東北大学理学部・助教授)
中野 繁(北海道大学農学部付属演習林・助教授)
選考経緯および選考理由
今回は応募を締め切った時点で2名の応募者がありました.1名は他薦でもう1名は自薦でした.両候補者の5編の主要論文を賞選考委員8名の全員に送り委員会の前にあらかじめ目を通しました.1月13日に東京大学総合科学部にて選考委員会を開催し,両候補者の研究業績,仕事の生態学での意義,日本生態学会での活動,宮地賞受賞候補者としての適性などを含むあらゆる側面について慎重に審議をし,全員の一致をもって,両名とも1998年の日本生態学会宮地賞受賞者としてふさわしいという結論に達しました.なおこの結論は,所用のため本日の委員会に欠席した2名の委員があらかじめ寄せた意見とも一致するものでした.
酒井聡樹さんは,樹木や草本の樹形や,種子や花の数やサイズなど植物の繁殖パターンに関するさまざまな現象を,個体の有機物生産と分配という視点で統一的に捉え,新しい理論を展開し,またその予測を野外データによって検証してきました.
中野繁さんは,河川サケ科魚類の行動生態および群集生態の緻密かつ精力的な野外調査に基づく研究を遂行してきました.生態学の広い領域を結び付ける視座を持っておられます.
両名とも,国際的なレベルで活躍し,多数の研究論文を国内外の一流の学術誌に執筆しておられ,日本生態学会が誇る生態学研究者であると判断します.
なお,以下のことが選考委員会の意見としてでました.
前回に続いて今回もまたごく少数の候補者しか推薦されませんでした.生態学会宮地賞が中堅および若手の研究者の励みになる賞として定着していくには,毎回もっと多くの候補者が推薦される必要があります.
今回の候補者は両名ともきわめて優秀な方で,生態学研究の中核となる研究機関の助教授をしておられる中堅研究者です.私は,これら両名の様に相当に確立した中堅研究者だけでなく,より若手の,たとえば学位を取得してから数年程度の若手研究者をも宮地賞の候補として考える可能性も必要と思います.受賞者が中堅研究者とするのが望ましいのか若手研究者が望ましいのかは意見の分かれるところで,そのあたりは選考委員会に任されているのかもしれませんが,ともかく応募者がなければ判断のしようもありません.
また,今回は,2名の内1名は自薦で応募してくださいましたが,これは大変好ましいことと思います.他から認められて推薦されるのを待つといった姿勢でなく,良い仕事をしていると思ったら遠慮なく応募するということができる雰囲気を学会の中につくって行くことも,この宮地賞が若手・中堅の賞として生態学会の中に定着するためには必要なことと思います.
できるだけ多くの候補者に応募していただけるように,またもっと気軽に応募できるようにするべく,何らかの具体的な手を打つことが必要と感じました.
第2回日本生態学会宮地賞受賞候補者選考委員会委員長 巌佐 庸
1998年3月28日