第4回(2000年)日本生態学会宮地賞受賞者
工藤 洋(東京都立大学理学部・助手)
安井行雄(国立環境研究所・特別研究員)
選考経緯および選考理由
応募者は4名でした.そのうち1名が自薦,3名が他薦でした.受賞候補者推薦用紙と各候補者の主要論文5編を選考委員6名にあらかじめ郵送し,これらの資料を精査していただきました.1999年11月11日,東京大学大学院農学生命研究科樋口研究室で選考委員会を開催しました.5名の審査委員(可知,川端,国井,東,樋口)が出席し,1名(矢原)が欠席でした.各受賞候補者の研究業績,生態学への貢献,日本生態学会における活動等,慎重に審議を行い,出席者全員の一致をもって,2名を受賞候補者として選考いたしました.なお,この結論は,外国出張のため欠席した矢原氏からの文書による意見も考慮した結果です.
工藤洋さんは,アロザイム多型を遺伝マーカーとして用い,野外植物の局所集団間や集団内における種子散布の動態を生態的時空間スケールで解析することに成功しました.特に,対象植物の置かれている環境,たとえば,集団間の距離や景観,栄養繁殖か種子繁殖かという散布体の性質に注目し種子散布を解析しました.今後も,植物集団における遺伝子の流れに関する研究に大きく貢献するものと期待されます.
安井行雄さんは,雌の多回交尾が進化する条件に関して,遺伝的に生存力の高い雄ほど精子間競争に多くの資源を投資することができることを仮定した新しい理論モデル (good sperm model)を提唱しました.また,雌による多回交尾の進化に関するこれまでの仮説と理論研究を精緻に検討し,実証研究者のための研究指針を提示しました.さらに理論を検証する研究も行なっており,国内外における繁殖行動の進化生態学の研究を担う若手研究者として高く評価されます.
両氏とも,研究成果を一流の国際学術誌に掲載しており,日本生態学会が誇る生態学研究者であると評価いたしました.
第4回日本生態学会宮地賞受賞候補者選考委員会委員長 川端 善一郎
2000年3月25日