日本生態学会

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第9回(2005年) 日本生態学会宮地賞受賞者

吉田丈人(Cornell University, USA)
深見 理(Landcare Research, New Zealand)


選考理由

吉田丈人氏
 従来,進化と生態学的現象は時間的に異なるプロセスだと考えられていたが,近年,生態学的な時間スケールにおいても生活史形質などに迅速な進化過程が観察されるようになった.このため,進化や生態学的現象を理解するためには,両方のプロセスを考慮する必要があると認識されるようになったが,実際の研究において両過程の関係を明確に示した例は少ない.吉田氏は,藻類(餌)とワムシ(捕食者)からなる実験個体群において,藻類の迅速な進化が個体群動態の重要な駆動要因となること明らかにした.
 具体的には,一連の研究で,藻類には異なる遺伝型があり,捕食に対する抵抗性と栄養塩を巡る競争能力にトレードオフがあること発見し,個体数変動を記述する数理モデルを使って,迅速な進化過程がないときには個体数変動の周期は短く,進化過程があると周期が長くなることを示し,藻類とワムシからなる実験個体群において,この理論的な予測を実証した.この主要業績は,Nature, Proceeding of the Royal Society of London (B) に掲載されている(受理を含む).
また,吉田氏は野外個体群の動態,分布などの研究にも取り組み,その業績は,Ecological Researchをはじめ Ecology, Oecologia, Ecology Letters などに合計19本の英語論文がある.
 以上のように,吉田氏は,32歳の若さであるのかかわらず,目を見張るような活躍振りであり,宮地賞の候補として最適であると評価し,ここに推薦する次第である.

深見 理氏
 深見氏は,群集の形成に関して重要だとされてきた生態系の生産性,生息地の大きさ,種供給源の大きさにおいて歴史性(移入の順序)の役割を詳細に分析し,種多様性の決定要因としての群集形成過程(歴史性)の重要性を明らかにした.
 具体的には,淡水微生物を用いた実験により,移入順序が変わることによって,生態系の生産性と種多様性の関係が正の相関,単峰型,U字型,無関係などに変わりうることを示した.また,群集形成の歴史と生息地の大きさの関連では,生息地が小さいときほど歴史性が種多様性の決定に重要であること,群集形成の歴史は種供給源の大きさと相互に作用しあい複数の空間スケールで種多様性に影響すること,を室内実験,数理解析などを駆使して明らかにした.これらの主要業績は,群集生態学の基本概念の発展に大きく寄与したものとして,Nature, Ecology, Population Ecology に掲載されている(受理を含む).
 また,深見氏は,群集構造の類似性が種多様性と生態系機能の関係に果たす役割,撹乱の起きる順序が群集構造に及ぼす影響など群集生態学を中心にした研究に取り組み,その業績(合計11本)が, Oikos, Trends in Ecology and Evolution, Advances in Ecological Researchなどに掲載されている.
 以上のように,深見氏は,32歳の若さであるのかかわらず,目を見張るような活躍振りであり,宮地賞の候補として最適であると評価し,ここに推薦する次第である.

選考経過
 今回は5名の方から応募があった.応募者の年齢幅は29歳から32歳で,前回(29歳から43歳)に比べて若年層にシフトし,年齢幅が狭くなった.若手への奨励賞である「宮地賞」として,今回の応募者の受賞資格年齢について論議の余地はなかったが,応募者の年齢幅が狭すぎる印象があり,より広い年齢層から(常識的な線として40歳まで)の応募が望ましいとの意見で出席委員が一致した.
 選考は,各候補者の研究業績を1名ずつ吟味し,これまでの受賞者に照らして,水準を超えているかどうかを議論した.その結果,5名のうち3名が受賞水準を超える研究業績をあげていると評価され,この3名から2名を選ぶための討議に移った.
 最終討議では,主要業績のオリジナリティ,独自性(指導教員の影響力の大きさ),研究課題の生態学における重要性などについて議論された.その結果,これらの点において,選出した2名の候補者がもう一人の候補者より優れていると評価された.
 選出した2名の候補者にはいくつかの共通点があった.それは,(1)主要業績では,生態学の主要課題にかかわる理論を主体的に検討し,淡水微生物を使った室内実験で検証するという研究スタイルを持つこと,(2)その研究成果が Nature誌に掲載されたこと,(3)ポスドクとして海外で研究していることである.選考委員会は,若手会員がこのように質の高い業績をあげ,国際的に高く評価されていることを喜ぶ一方で,nature誌あるいはそれに相当するような学術雑誌に研究業績が掲載されることが受賞に必須であるかのような印象を与え,候補者の自薦,他薦行動に対するネガティヴな影響を懸念している.
 選考委員会としては,多様な研究課題,研究スタイルを奨励することが日本の生態学の発展に欠かせないと考えている.特に一見効率が悪いとおもわれる野外調査を主体とする研究において努力を重ねている会員を奨励したい.しかし,前回の受賞者と今回の候補者は,室内実験と理論を主要業績とする30歳前後の研究者となり,宮地賞受賞者の多様性を狭める傾向につながりかねない.そこで,より多様な研究者を奨励するように宮地賞を性格づける努力を続けることを次年度以降の選考委員会にお願いしたい.

選考委員会メンバー: 占部城太郎、大澤雅彦、加藤真、河田雅圭、齊藤隆(委員長)、中静透、樋口広芳

大澤委員,中静委員は選考委員会に欠席したが,メイル連絡によって,選考に関わった.

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