日本生態学会

Home > 学会について > 学会各賞宮地賞歴代受賞者

第15回(2011年) 日本生態学会宮地賞受賞者

天野 達也(農業環境技術研究所)
瀧本 岳(東邦大学理学部)
三木 健(國立台湾大學海洋研究所)


選考理由

天野達也氏
 天野達也氏は、鳥類の採食行動の意思決定に関わる行動生態学的研究と、既存データを用いたマクロ生態学的、景観生態学的研究の2種類の研究に取り組んできた。鳥類の採餌行動の意思決定にかかわる研究では、個体ベースモデルを用いて、マガンは限られた情報下で、群れで採食することの損得をもとに、行動の意思決定を行なっていることを明らかにした。また、このモデルを応用し、マガンによるコムギの被害を軽減するために、効果的な具体策を提言した。一方、チュウサギを対象とした研究では、複数の時間スケールにおける採食経験に基づいて、パッチ内移動やパッチ間移動に関する意思決定を行っていることを明らかにした。既存データを用いた解析では、階層ベイズモデルや種間比較法など、この分野ではこれまでほとんど使用されてこなかった手法を用い、鳥類の個体数減少の傾向や温暖化による植物の開花時期の早期化に関する証拠を提示した。これらの成果は、Ecological Monographs, Ecology, Proceedings B, Journal of Applied Ecology, Biological Conservation など、インパクト・ファクターの高い雑誌に掲載されている。さらに、研究成果の一部は、生物多様性総合評価や、経済協力開発機構の農業環境指標として採用されるなど、社会的に重要性が認知されている。以上、天野氏は基礎科学と応用科学のバランスのとれた若手研究者であり、日本生態学会宮地賞の受賞者として相応しいと判断した。

瀧本岳氏
 瀧本岳氏は、種分化を主とした進化生物学と群集生態学を中心に、数理モデルを用いた理論研究において顕著な業績をあげている。主著は、Ecology, Evolution, American Naturalist, Theoretical Population Biology,などに、共著も、Nature, Ecology, Oecologia, Oikos, Molecular Ecologyなど国際的な専門誌に掲載され、総被引用回数は候補者のなかでも群を抜いている。瀧本氏は、まず進化生物学において、性選択による同所的種分化のメカニズムを共著者とともに理論的に提示し、このテーマの発展に大きく貢献している。また人間活動による生息環境の均質化が種分化のプロセスを逆行させる可能性(speciation reversal)をモデルと広範な分類群のレビューにより検討し、新たな生物多様性喪失の要因を提唱した。一方、群集生態学においても、生活史で異なる生態系を移動する動物群(両生類や水生昆虫など)の資源供給に応じた適応的な移動が群集動態を安定化する効果、系外資源が消費者を通じて系内資源に引き起こす間接効果が系外資源の供給と消費者の応答の時間スケールで決まること、促進的な種間相互作用がはたらく場合の局所種数-地域種数関係の検討、さらに数理モデルと自らおこなった安定同位体分析により生態系サイズ(島面積)がバハマ諸島の陸域群集の食物連鎖長を決める主要因であることを示すなど、群集研究における新鮮かつ多角的な視点を提示した。現場の視点から問題提起をおこない、現実に即した理論構築を大切にする瀧本氏の姿勢は、多くの委員の共感を集めた。また日本生態学会においても、Ecological Research 編集委員、生態学会大会企画委員を務めている。以上の理由から、瀧本氏を宮地賞候補者として推薦することに決定した。

三木健氏
 三木健氏は、生物多様性と生態系機能の関係について、特に分解者群集(主に微生物)の生態系における役割を中心に、数理モデルを用いた理論研究において顕著な業績をあげている。主著は、PNAS, Ecology Letters, Freshwater Biology, Ecological Modelling, FEMS Microbiology,などに、共著も、Oikos, Journal of Animal Ecology, Limnology and Oceanography, Microbes and Environment, Advances in Oceanography and Limnology, Theoretical Population Biology,など理論誌の枠を超えて多彩な国際的専門誌に掲載されている。これは、三木氏の年齢を考慮するときわめて高い生産性と評価できる。三木氏の主要な業績は、それまで一次生産者を中心に展開してきた生物多様性と生態系機能の関係に関する研究の流れに対して、微生物を主とした分解者群集の生物多様性の役割を理論的に評価したものである。一次生産者と分解者をセットとしてモデル化することで、微生物群集の多様性が一次生産者由来の生態系機能の変動を安定化する効果(緩衝作用)を持つことを理論的に指摘し、一般的な仮説として提出した。三木氏は、一連の業績のなかで、ゲノミクスの進展により進歩の著しい微生物生態学の成果を理論に取り込むことで、生態系における生産者と分解者の多様性の役割を総合的に評価する枠組を構築し、海洋と陸域の両生態系を視野にいれたスケールの大きなアプローチを推進した。関連する公募シンポジウムや企画集会、日本生態学会誌の特集により、微生物群集の重要性を広めることに貢献した。以上の理由から三木氏を宮地賞候補者として推薦することに決定した。

選考委員会メンバー:辻和希,津田みどり,永田 俊,井鷺 裕司,久米 篤,宮下 直(委員長),宮竹貴久,谷内茂雄,吉田丈人

トップへ