日本生態学会

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第20回(2016年) 日本生態学会宮地賞受賞者

高橋 一男(岡山大学大学院環境生命科学研究科)
仲澤 剛史(国立成功大学生命科学系・台湾)
松田 一希(京都大学霊長類研究所)


日本生態学会宮地賞には6名の自薦・他薦があった。これまでの研究業績や研究活動の主体性等を総合的に評価して、特に優れていた高橋一男氏、仲澤剛史氏、松田一希氏を受賞候補者として選定したことを報告する。

選考理由

高橋一男 氏
高橋一男氏は、主にショウジョウバエを研究材料として、競争種の共存機構、自然淘汰効率の染色体間差に関する集団遺伝学的研究、遺伝変異隠蔽機構等についての研究をすすめてきた。初期の研究では、ショウジョウバエ類を利用した野外研究や室内実験によって、資源や生物の空間分布が共存に及ぼす影響を検証した。その後、キイロショウジョウバエを材料に分子遺伝学的手法やゲノミクスを活用して、遺伝変異隠蔽因子が生物進化において果たす役割に関する研究を進めている。野外集団における隠蔽変異やその制御機構の解明は、当該生物の環境適応能力や、隠蔽変異の蓄積・開放を通じた断続的な進化の普遍的理解にもつながることが期待される。これらの研究成果は、Oikos, Heredity、PloS ONE、Journal of Animal Ecology, Ecological Researchなどの国際誌に24編の学術論文として掲載され、総引用回数は160回以上に達する。生態学会においても発表や集会企画を通じて成果を活発に発信している。以上の理由により、高橋一男氏は、日本生態学会宮地賞の受賞者として相応しいと判断する。

仲澤剛史 氏
仲澤剛史氏は、群集生態学を中心とする課題について、多様なアプローチで精力的に研究をすすめてきた。主要な研究成果には、被食者-捕食者体サイズ比にみられるパターンの発見、個体成長に伴う種間相互作用変化が群集動態に及ぼす影響の理論予測、フェノロジーのマッチングが群集動態に及ぼす影響などに関するものがある。なかでも、生物の個体成長や体サイズの個体群内バリエーションが果たす役割を明らかにした一連の研究は、個体群を均質個体の集合と捉えることの多い群集生態学に新しい視点を提供するものであり高く評価できる。これらの広い研究課題とともに、実証研究者との積極的な共同研究も仲澤氏のこれまでの成果を特徴づけている。これらの研究成果は、Scientific Reports、PloS ONE、Oikos、Biology Lettersなどの国際誌に30編の学術論文として掲載され、総引用回数は320回以上に達する。生態学会においても連年、数多くの発表を行ってきたほか、シンポジウムの企画などを通して生態学会の発展にも積極的に貢献している。以上の理由により、仲澤剛史氏は日本生態学会宮地賞の受賞者として相応しいと判断する。

松田一希 氏
松田一希氏は、ボルネオの湿地林で樹上生活をするテングザルの生態について精力的にフィールド調査・研究を進めてきた。狭鼻猿類のコロブス亜科の生態には不明な点が多く、特に湿地林で樹上生活をするテングザルの研究は、フィールド研究の困難さやそれに関連する手法上の制限から進んでいなかった。松田氏は、決して容易ではない、林内でのハレム群追跡調査・観察をおこなうことでこの手法上の問題を克服した。これにより、テングザルの食性、遊動行動、反芻行動などに関する様々な興味深い新事実を明らかにしてきたことは注目に値する。これらの研究成果は、Oecologia、Biology Letters、Physiology and Behavior、Scientific Reportsなどの国際誌に24編の学術論文として掲載され、総被引用回数は170回以上に達する。また一般書を通じて野外生態学研究の面白さを広く伝えてきたことも評価される。松田氏の「探検家」的な研究スタイルは最近の若手生態学者では独自の位置を占めており、霊長類学の若手研究者のホープでもある。以上の理由により、松田一希氏は日本生態学会宮地賞の受賞者として相応しいと判断する。

選考委員会メンバー:大園享司,中野伸一,野田隆史,工藤洋,近藤倫生(委員長),松浦健二,鏡味麻衣子,日浦勉,吉田丈人

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