日本生態学会

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第23回(2019年) 日本生態学会宮地賞受賞者

照井 慧(ミネソタ大学 生態・進化・行動分野)
深澤 遊(東北大学大学院 農学研究科・カーディフ大学 生命科学部)


日本生態学会宮地賞には5名の自薦・他薦があった。これまでの研究業績を特に生態学分野の功績を重視して評価するとともに、研究活動の主体性や学会への貢献等も総合的に評価し、照井慧氏と深澤遊氏を選出した。

選考理由

照井 慧 氏
照井慧氏は、河川生態系を対象に、生物の移動とそれが支える個体群構造に関する研究で、新奇性の高い重要な成果を挙げている。2018年にPNAS誌に発表した論文では、メタ個体群の存続機構としての生態系の構造的な多様性の重要性を主張した。従来、「生態系の空間的な広さ」がメタ個体群存続のカギを握るとされきた。しかし、照井氏は、河川では「生態系の形の複雑さ」がメタ個体群の長期存続を支える主要因となりうることを、数理モデルによるシミュレーションと、北海道の31水系18年にわたる広域・長期の魚類群集データの分析により実証した。2017年にProceedings B誌に発表した論文では、二枚貝と魚類の寄生ー宿主関係を対象に、寄生を操作する野外実験を実施し、宿主魚類の移動が寄生によって変化することと、その移動性が魚の個体サイズに依存することを発見した。同時にシミュレーションも行い、このような宿主の移動性の個体差が寄生者個体群の存続に大きな役割を果たしていることも明らかにした。これらに代表されるように、照井氏は、ベイズ統計を駆使した野外データ解析、野外操作実験、数理モデルによるシミュレーションなど、複数のアプローチを効果的に組み合わせることで、幅広いテーマで質の高い研究を実践してきた。研究成果の多くは、基礎的に重要な新知見というだけでなく、生態系管理や多様性保全といった応用面での示唆にも富む。一連の成果は、国際誌に19報(うち筆頭論文は12報)、国内誌に6報掲載されている。日本生態学会でも、英語での発表を多く行っており(4回うち英語口頭発表賞を2度受賞)、Ecological Research誌、保全生態学研究でも論文を発表している。以上、照井慧氏は今後も空間生態学分野での活躍が大いに期待できる優秀な研究者であり、宮地賞を受賞するに相応しいと評価する。

深澤 遊 氏
深澤遊氏は、森林生態系において大きな炭素貯蔵庫である枯死木の分解の生態的な意義について研究を続けてきた。森林内で枯死した樹木が、菌類の違いに基づく異なった腐朽プロセスを経ることによって、森林内に多様な更新サイトが創生されること、枯死木分解における明瞭な緯度クラインの存在、そして、腐朽木上で展開される生物間相互作用など、枯死木の分解に関わる多くの興味深い生態学的事実を明らかにしている。また温暖化にともなう台風等の撹乱要因の大型化、高頻度化によって増大している樹木の枯損や、マツ枯れやナラ枯れの流行による大量の枯死木などについても、これらが森林生態系に及ぼす影響を、腐朽菌の動態や機能に着目して解析を進めている。これらの成果はMycologia, Journal of Ecology, Canadian Journal of Forest Research, Evolutionary Ecology, Fungal Ecology, Forest Ecology and Management, Ecological Researchなど多くの学術雑誌に公表され、総被引用数は325回に及ぶ(Researcher ID調べ)。日本生態学会大会においても企画集会、自由集会を開催し、日本生態学会誌の特集として取りまとめているほか、日本生態学会が編集する書籍などを通して、菌類による分解過程の重要性を社会に伝えている。また、学会大会の実行委員や地区会の庶務幹事としても学会の運営に貢献している。以上の点から、深澤遊氏は、日本生態学会宮地賞の受賞者として相応しいと判断する。

選考委員会メンバー:東樹宏和(選考委員長)、岸田治、塩尻かおり、土居秀幸、井鷺裕司、北島薫、内海俊介、岡部貴美子、三木健

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