第10回(2017年) 日本生態学会大島賞受賞者
中村 隆俊(東京農業大学生物産業学部)
長谷川 雅美(東邦大学理学部生物学科)
選考概要
日本生態学会大島賞には2名の他薦による応募があった。中村隆俊氏、長谷川雅美氏とも野外研究において優れた業績を挙げていたことから、両名を受賞候補者として選定したことを報告する。
中村隆俊 氏
中村隆俊氏は長期・多地点の湿原研究を通じて、どのようにして湿原マトリックスのモザイクが湿原の多様性を決定するのかについての研究を行ってきた。日本の冷温帯湿原においてフェンとボッグの分布が、pHの差がもたらす有機体窒素の吸収のしやすさの違いを通じて、湿原植生に多様性を与えていることを明らかにしている。また、これらの研究が、多地点の野外データを用いていることのみならず、植物の発育生理学的実験と野外操作実験を組み合わせることで、実証的に進められていることが評価できる。長期研究の経験を活かし、日本生態学会における活発な活動を期待する。
長谷川雅美 氏
長谷川雅美氏は伊豆諸島の島嶼生態系を約40年にわたり地道に研究し、は虫類を中心に鳥類、植物、哺乳類の主要構成種の動態に関する基礎資料を蓄積して、数多くの論文を公表している。特に捕食者であるシマヘビと被食者であるオカダトカゲの個体群動態と進化的相互作用は30年間にわたって記録されており、進化生態学的に今後益々貴重なデータとなると思われる。また、このような背景を元にシマヘビとオカダトカゲの遺伝解析を共同研究者らと行い、オカダトカゲの形態や生活史の特徴の一部は捕食者であるシマヘビと鳥の在不在と関係していることなど極めて興味深い現象を明らかにしている。生態学会においても保全生態誌の編集長を務めるなど大きな貢献をしている。以上の理由により、長谷川雅美氏は日本生態学会大島賞の受賞者としてふさわしいと判断する。
選考委員会メンバー:工藤洋,近藤倫生,松浦健二,鏡味麻衣子,日浦勉(委員長),吉田丈人、岸田治、塩尻かおり、土居秀幸