第1回(2024年) 日本生態学会自然史研究振興賞受賞者
遠山 弘法(桜美林大学リベラルアーツ学群)
末吉 昌宏(国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所)
選考理由
今回が最初の公募となる自然史研究振興賞には、総勢15名からの応募があった。選考にあたっては、「生物多様性の理解の源となる記載研究により、生態学の基盤強化に寄与していること」を基本コンセプトとし、(1)生物多様性研究からみた研究内容の重要性、(2)データの集積量、(3)データのオリジナリティー、(4)研究成果の公開度とデータへのアクセス性、(5)アウトリーチ活動や普及活動等の社会貢献、などの観点から評価を行った。そして以下の2名(申請書提出順)を選出した。
遠山 弘法 氏
種多様性が極めて高い熱帯〜亜熱帯地域を中心に、4万点に及ぶ膨大な植物標本、74種の新種記載、200種以上のフェノロジーデータ、膨大な植生データ、DNAライブラリー構築など重厚な自然史研究を行ってきた。数百種の樹木のDNAバーコーディングライブラリなど、他では見られないオリジナリティーの高い情報を、精力的に公開している。東南アジア圏のフロラ解明、フェノロジー記載、膨大な標本作成・登録、公開性の高いデータベース構築、フロラ情報の乏しかった山岳地域の図鑑作成など、素晴らしい記載研究を積み重ねている。陸域生態系の根幹をなす植物群集の基礎情報をシステマティックに整備することで、多様性研究の基盤強化に著しい貢献をしていると評価された。これまでの研究成果の多くは、大型プロジェクト研究の一環であるが、申請者はその中心的役割を果たしてきた。以上のことから、「生物多様性理解の源となる記載研究による生態学の基盤強化」を基本コンセプトとする本賞の受賞者としてふさわしいと判断した。
末吉 昌宏 氏
双翅目昆虫は膨大な分類群を含み、その生態機能も分解者、捕食者、植食者、寄生者、送粉・胞子散布者と極めて多様であるにも関わらず、未記載種が溢れている。申請者がこれまで行ってきた13万点の標本作製や約400種の目録作成は、極めて厚みのあるデータ集積である。種記載に留まらず、地理的分布、生活史、生態特性も含めた記載データ収集は、貴重な生態情報である。標本コレクションに基づいた双翅目昆虫目録やデータベースを作成・公開しており、図鑑や検索表の執筆にも携わってきた。これまで公開してきた基礎データは、多くの基礎生態学、保全生態学、害虫防除研究などに利用されてきた。レッドデーターブックの編集や、双翅目昆虫の自然史に関する雑誌編集を担当し、国内の双翅目昆虫の分布記録の公開にも貢献してきた。自ら新種記載を行うとともに、膨大な標本作製と公開、生活史情報や生態機能など、双翅目昆虫の全貌を記載研究で明らかにした業績は分類学に留まらず、生態学的にも高く評価できる。以上のことから、本賞の受賞者としてふさわしいと判断した。
自然史研究振興賞選考委員:工藤岳、鈴木まほろ、西廣淳、三橋弘宗